2025年 05月 19日
初夏の日本漢詩〜松本愚山『初夏偶成』〜
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天候が定まりきらないとはいえ、なんだかんだで夏になりつつありますね。茶の湯の世界でも、五月からは風炉。という訳で、初夏の漢詩を今回は。松本愚山の『初夏偶成』。
まずは作者・松本愚山(1755-1834)について。京都の人で名は慎で字は幻憲、皆川淇園に学んだ後に大坂で儒者・文人として教育にあたりました。著作に『愚山文稿』『藻語箋』があり、弟子には新発田藩侍医の松田竹里や加賀藩主の病を治した小林具訓、更に奥山金陵や中津藩儒の野本雪巌らがいます。
では、見ていきます。
初夏偶成
葦簾初捲困人天
燕語呢喃起午眠
休說先生生計拙
新荷葉葉已成錢
(筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院 190頁)
葦簾 初めて捲く 人を困むる天。
燕語 呢喃 午眠を起こす。
説くを休めよ 先生生計の拙なるを。
新荷 葉葉 已に銭を成す。
〈超意訳〉
五月雨で人間が困惑する天候の中、葦でできた簾を初めて巻き上げる。
ツバメの鳴き交わす声が聞こえてきて、昼寝から目覚めた。
言ってくれるな、私が生計を立てるのが下手で銭がない事は。
新たに生えた蓮の葉がゆらゆらと、銭のような形で立ち並んでいるではないか。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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韻脚は「天、眠、銭」の下平声一先
以下、語句解説です。
・葦簾
葦を編んで作った簾。夏の季語。
・困
苦しめる、困らせる。
・呢喃
燕がなく事、その声。転じて、いつまでも話をする事。
・休
「〜するな」の意。「やめよ」とよむ。
・新荷
「荷」とは蓮。新しく出た蓮の葉。形が銭のように円い事を張籍は「蓮葉出水大如銭」と詠じている。
・葉葉
ゆらぐ様子。
葦簾、蓮と夏の季語を並べて新たな季節を感じさせる一品といえます。
【参考文献】
筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版
『日本人名大辞典』講談社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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