2025年 06月 25日
江村愚亭『題畫虎』〜虎を謳う日本漢詩〜
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随分とご無沙汰しました。今年のプロ野球交流戦も終わりましたね。阪神は苦戦を余儀なくされましたが、セ・リーグ順位に変動がなかったのは幸いでした。
…それに絡んでという訳ではないですが、今回は虎を題材にした日本漢詩を。江村愚亭『題畫虎』です。
江村愚亭は徳川中期の儒者江村北海(1713-1788)の次男で、書画に巧みでしたが狷介な為人で27歳で早世したといいます。では、見ていきます。
題畫虎
深山枯草動寒風
猛虎蹲身亂石中
洗盡吻邊獐兎血
一溪春水落花紅
(岩垂憲徳著『和漢百人一詩』昭文堂 47頁)
深山の枯草 寒風に動く。
猛虎身を蹲す 乱石の中。
洗ひ尽す 吻辺 獐兎の血を。
一渓の春水 落花紅なり。
〈超意訳〉
奥深い山の枯草が、寒々とした風に吹かれて揺れる。
そんな場所で、猛々しい虎がむら立つ岩に混じって蹲っている。
口元の鹿や兎の血を洗い流したら、
その谷川の春の水は花が散ったかのように真っ赤に染まった。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
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韻脚は「風、中、紅」で上平声一東。
以下、語句解説です。
・深山
奥深く茂った山
・蹲
うずくまる
・乱石
むら立つ岩
・吻
動物の口元
・獐
鹿科の哺乳類
・落花
落ちて散った花
虎の猛獣ぶりを謳った詩といえます。そう言えば中島敦『山月記』でも虎になった主人公が最初に仕留めた獣は兎でしたが、「仕留めた兎の血で口元を染めた虎」というのは定番のモチーフなんでしょうか?
【参考文献】
岩垂憲徳著『和漢百人一詩』昭文堂
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版
『日本人名大辞典』講談社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「青空文庫」(https://www.aozora.gr.jp)より「中島敦 山月記」(https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/624_14544.html)
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| 2025-06-25 20:52
| NF








