2025年 08月 04日
夏の漢詩〜徳川光圀『脩竹不受暑得琴字』〜
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大変ご無沙汰しています。大変な暑さですな。更新をサボっていたのは、バタバタしていたのと、この暑さで参っていたから、という事にさせてください。さて、今回は夏を題材にした日本漢詩を扱います。気分だけでも涼しく、といった趣で。作者は徳川光圀、題は『脩竹不受暑得琴字』。
脩竹不受暑得琴字
脩竹垂垂坐翠蔭
不知九夏溽蒸侵
此君借取涼風手
彈得無絃靖節琴
(筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院 192頁)
脩竹 垂垂として 翠蔭に坐す
知らず 九夏 溽蒸の侵すを
此の夏 借取す 涼風の手
弾じ得たり 無絃 靖節の琴
〈超意訳〉
長い竹がたくさん垂れ下がって緑で蔭になっているところに座っていると、
世の中に夏の蒸し暑さが迫るのも気づかない。
竹は涼しい風の手を借りて、
かの陶淵明の無絃の琴を思わせるような自然の微妙な調べを奏でてくれる。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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⚫︎⚪︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
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△⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎◎
韻脚は「侵、琴」で下平声十二侵。「蔭」は仄声ですが「陰」ならやはり下平声十二侵。
以下は、語句解説です。
・脩竹
長い竹。「脩」とは「長い」という意味。
・垂垂
たくさん垂れ下がっている様子。
・九夏
夏の九十日間。夏いっぱい。九暑とも。
・溽蒸
暑さ。「溽」とは蒸し暑さ。「蒸」とは熱気や湯気が立ち上るさま。
・此君
竹のこと。晋の王徽之(王羲之の子、字は子猷)が竹を愛し「何可一日無此君耶」(何ぞ一日も此の君なかるべけんや)と称した故事に基づく。
・借取
借りる。
・無絃
弦の張られていない琴。転じて、自然の微妙な調べ。陶淵明は琴ができなかったが弦のない琴を持ち酔うとその琴を撫したという故事に基づく。
・靖節
陶淵明のこと。
【参考文献】
筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版
『日本人名大辞典』講談社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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文字面だけでも涼しく、と出した記事と記憶してます。
by trushbasket
| 2025-08-04 20:51
| NF








