2007年 10月 03日
メイドロボの精神史 前編
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先日デカルトの幼女人形のことを取り上げたところ(http://trushnote.exblog.jp/7499094/)なので、今回は人形の話でもしようと思います。
『(有)椎名百貨店』(椎名高志著 小学館)という1990年代はじめの作品を集めた短編漫画集があるんですよ。可愛いらしいネズミのキャラクターから女子小学生の入浴シーンまでと、健全な人向きのネタから不健全な人向きのネタまで、様々ネタを取りそろえており、話の種類もちょっといい話からバカバカしさ全開のギャグマンガまでと、人それぞれに好みに応じた楽しみかたのできる、なかなかオススメの短編集なんですが、カレー味のウンコパンマン&ウンコ味のカレーパンマンとか、自分の耳クソが無くなると他人の耳クソを強奪し自分の耳に移し替えてまで耳かきを行う半裸でマッチョつるっぱげの耳かき大好き怪人耳かき男とか、嫁さんが実は幽霊だったんだけどお金持ちのお嬢さんで自分と会うまで処女だったことさえ本当なら「生きてるか死んでるかなんて小さなことさ」と言い切る旦那さんとか、カワイイ女の子がいっぱいるけど校長が朝礼で「悲しいお知らせ」して曰く実は男子校だった高校とか、女の子が読者の耳かきをしてくれる特殊機能付きの立体四コマとか、人魚と愛し合って求婚してはみたものの産み落とした卵の上に発射しろと言われて怒り心頭の人間男性とか、巫女の衣装をみると情熱がおさえられない体質の男とか、ベタなものから余人には考えつかないようなものまで、ちょっと頭のおかしい変態的なキャラクターとか場所とか状況が満載のステキ変態作品集でもあります。
とりあえず耳かき男は他人の耳クソ奪うよりは自分の耳クソを耳に戻して再利用するほうが手っ取り早い気がするのですが、別に耳かき男はどうでも良いので置いておいて、この短編集中に『電化製品に乾杯!』なる作品があります。なお電化製品と書いてアンドロイドと読みます。
で、話の内容ですが、女性型アンドロイドを購入するために電機屋に足を踏み入れたとある男性をめぐるアンドロイド達のひと騒動。機能重視の武骨な非女性型アンドロイドによる「女性型アンドロイドなど、しょせんはまやかし!現実の女性の代わりにはならないのです!!」との指摘にもめげず、顔のカバーを剥がせばカメラやコードがグロテスクにうごめく「まがいものの女」のメカメカした「気持ち悪い」現実を突きつけられても動じず、彼は、結局、一生懸命いぢらしく働く女性型アンドロイド、ミソッカス90Fを前に、「それでもかわいい!!買う!!!」と力強く言い放ち、彼女を購入します。まあ、この男性、物心ついて以来アンドロイド入手に向けて貯金を続けたという現実の女性の代わりにアンドロイドなんてレベルじゃない剛の者ですし、本物の女も皮一枚剥がせば縦横に走る筋繊維も生々しいグロテスクな物体に過ぎないことは、作中で別の女性型アンドロイド、ソミーHF9000が指摘する通りですから、購入は当然の決断と言えるでしょう。そして保証期間が切れたとたんに彼女が故障するまでの間、彼は、本人曰く「幸福」に暮らすという、ちょっと切ないラヴストーリーギャグマンガ。
ところで、椎名先生は「ロボット美少女パーツ欠損フェチなるやっかいな性癖」(2007/09/23 ■人形になってもパンチラを披露する葵の勇姿を僕たちはきっと忘れないサンデー42号絶チル感想(椎名高志ファンホームページ C-WWW)http://whatsnew.c-www.net/comic/zettai/0742.htm)の持ち主という説がありますが、顔のカバーの外れたアンドロイドは先生ご本人としてはどうなのか、ちょっと気になりますね。さすがに顔カバーの欠損は特殊性癖持ちの先生をもってしてもアウトなのか、じつは顔カバーがはずれて内部構造むき出しのほうが先生的に一押しで「それでもかわいい!!」ではなく本音は「それだからかわいい!!」なのか。
さすがに顔カバーの欠損はアウトだと思うのですが…。
やはり欠損は手首が外れてコードが出てるとか、右手が無いからしかたなくドリルをつけるって程度に留めるほうが良いと思うんですよ。
なお、いじらしくかわいいロボットとのつかの間の幸せな恋物語という点で、この作品は、90年代後半のゲーム『To Heart』に登場したメイドロボHMX-12マルチの遙かな先駆を成す作品となっています。椎名先生ご自身も楽しそうにマルチを「バッタもん」呼ばわりしてますしね(「椎名百貨店the web」の「漫画&落書き」コーナーにある「看板娘行進曲01」http://www.ne.jp/asahi/cna100/store/manga/kanbanmusme/kanban01.htmを参照)。
それにしても「それでもかわいい!!買う!!!」という思い切りの良い非人間愛の宣言は、後の『GS美神 極楽大作戦!!』で幽霊のおキヌちゃんという大人気ヒロインを描いて「「死んでるおキヌちゃんが好き」とゆー一部病んだファンの方々」(20巻カバー作者コメント)を大量生産し、作品中の人気のヒロインといえば幽霊と蛍の魔物と狐の妖怪という非人間愛極まる状況を作り出した、椎名先生の真骨頂というべきではないかと思います。
作品のストーリ上のクライマックスいわゆる「アシュタロス編」における蛍の魔物ルシオラの人気および作品末期における狐の妖怪タマモの人気については「椎名高志ファンホームページ C-WWW」の以下の記述を参照
「アシュタロス編の真の主役とも言うべきルシオラ」
ルシオラ・オンライン総集編
1998: The Age of Lucciola - ルシオラの時代
http://c-www.net/bon/lol/age.html
「タマモの一人勝ち」
99/ 7/21
http://c-www.net/newold19.html
余談ながら死んでないおキヌちゃんは「ちょっとどじなクラスメートの女のコ、「みかんちゃん」」(28巻189頁)程度のみんなから好かれるだけの「バカバカしいまでに都合のいい設定」(同巻同頁)のあざとくピュアな凡庸ヒロインに成り下がってる気がしないでもないので、やっぱりおキヌちゃんは死んで包丁研ぎながら怪しく笑ってるほうが良いのではないかなあとか思ったり…。
さて、『電化製品に乾杯!』が高らかに謳い上げた女性型アンドロイドへの愛は、その時点ではまだギャグの衣に包まれていたものの、数年後『To Heart』のメイドロボHMX-12マルチ登場を経て、ギャグの衣を脱ぎ捨てた真剣な思いの形で、大いに社会に拡散共有されるに至り、女性型アンドロイドによって現実を超えた最高のヒロインを生みだそうという夢は、もはや民族共通の意志と言っても過言ではないでしょう。いくらロボット大好き日本人とはいえ、十万馬力の機械なんて危ない物体や青いタヌキの動く置物を本気でご家庭に導入したがる方など、そんなに多くいるはずもなし。「日本じゃそんなだっせーオモチャはもはや幼児しか遊ばん!!我が国のオモチャはもっと進化しているのだ!!」(椎名高志著『絶対可憐チルドレン』105話)そう、本音としては、みんなマルチやミソッカスが欲しいのです。
そんな状況ですから、ここで、女性型アンドロイド、メイドロボに繋がる精神の系譜を振り返ってみるのも、一興ではないかと思います。とりあえず現代日本文化は、日本的感性によって変奏した西洋文化ですから、振り返る対象は西洋文学史といたしましょう。別に文学は好きでも詳しくもないので全てを網羅した完璧なものなどとても書けませんが、直接読んだことのある物語に何かの折りに間接的に知った物語を加えて、時代順にいくつか並べて紹介を。
本音を言えば『電化製品に乾杯!』についてちょっと語りたかっただけなのですが、歴史サイトのブログという体裁を繕うため、ずいぶんと話が大きくなってきました。
まず思い当たるのは『聖書』の神が人間を創造する物語でしょう。「神はご自分にかたどって人を創造」することにし、土を材料に男を創られたが、その後その男を元にさらに「女を造り上げられた」とか(引用は『聖書 新共同訳』「創世記」)。この自らの姿を元に新たな生命を創造する営みは、神の立場から見れば、まさに人がアンドロイドを創るようなもの。そして神が、完成した自らの似姿を元にして、さらに「女」なる未だ現実化せぬ新たな美を造形した姿は、人が現実を超えたまだ見ぬ理想の美女をメイドロボ創造によって目指すがごとし。それにしても男が女に誘惑されて神の言うことを聞かなくなる辺り、この創造は救いようのない大失敗ですが、外観の造形という点に限れば巧く行きすぎていたと言うべきでしょうか。
また神話の物語であれば、オウィディウスが『変身物語』で伝えるギリシア神話、生身の女の欠点にウンザリしていたキプロス王ピュグマリオンが象牙彫刻の美女を創りだし、日々彫刻に語りかけ口づけ愛撫する奇行を続けた挙げ句、神に祈って彫刻を生身の女に変えてもらった話は有名ではないかと思います。ただし、ピュグマリオンは神に祈る際に言い間違えて、象牙の乙女ではなく、「象牙の乙女に似た女」(『オウィディウス 変身物語 (下)』中村善也訳 岩波文庫 75頁)が欲しいと訴えたらしいので、彼の手に入れた女がはたして元彫刻なのか、彫刻と入れ替えられた別の生身の女なのかはよく分からず、これがメイドロボにつながる物語と言うには少々ためらわれます。だいたい動かぬ彫刻を創った後で、改めて神に祈って生かしてもらうなんてのは、自らの技術と英知で新たな生命を創造しようという気概にいまいち欠けており、この点でもメイドロボにつながる物語の系譜に組み入れるのは少々問題ありでしょう。
古代世界のメイドロボ物語としてはこれよりも、ギリシア神話のダイダロスの手になる体内の水銀によって動作し夜中に人間との情交にふけるウェヌス像のほうがふさわしいと思われます。またローマの魔術師ウェルギリウスのウェヌス像の物語もあります。すなわち魔術師ウェルギリウスが、女神ウェヌスをかたどった精巧な性愛機械を造り上げ、男達が自由に使用できるようローマの広場に公開していたという伝説があるとか。メイドロボへの願望の中に、ある程度の性的な要素が含まれていることは否定できない事実ですから、これらの伝説はメイドロボ物語の系譜に加えても問題ないかと思います。
その後の中世においてもウェヌス像がらみの物語は存在しており、命を持って男に迫る像の話なんかがあるようですが、今欲しいのは像を創って使った話ですからこれはさておき、この時代の物語としては、アルベルトゥス・マグヌスの機械人形の話でも挙げておきましょう。13世紀の大学者にして大魔術師アルベルトゥス・マグヌスは、機械人間を下男として使用していたが、騒音が酷く勉学の邪魔であるとアルベルトゥスの弟子のトマス・アクィナスによって破壊されたという伝説がそれです。メイドロボの役目は性的なものだけではなく、むしろ諸々の日常業務を担当させることが主目的でしょうから、下男ではあれど、これもメイドロボに至る系譜上の物語とは言えるでしょう。
長くなったので一度切ります。
残りは後編
後編はこちら(http://trushnote.exblog.jp/7543388/)
参考資料
後編を参照
関連記事(2009年5月17日新設)
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偉大なるダメ人間シリーズ番外その2 等身大幼女フィギュアを抱えて動き回る変態武闘派哲学者?
れきけん・とらっしゅばすけっと/京都大学歴史研究会関連発表
トマス・アクイナス
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1999/991126.html
日本民衆文化史
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html
エロゲーを中心とする恋愛ゲームの歴史に関するごく簡単なメモ
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/s2004/050311.html
『(有)椎名百貨店』(椎名高志著 小学館)という1990年代はじめの作品を集めた短編漫画集があるんですよ。可愛いらしいネズミのキャラクターから女子小学生の入浴シーンまでと、健全な人向きのネタから不健全な人向きのネタまで、様々ネタを取りそろえており、話の種類もちょっといい話からバカバカしさ全開のギャグマンガまでと、人それぞれに好みに応じた楽しみかたのできる、なかなかオススメの短編集なんですが、カレー味のウンコパンマン&ウンコ味のカレーパンマンとか、自分の耳クソが無くなると他人の耳クソを強奪し自分の耳に移し替えてまで耳かきを行う半裸でマッチョつるっぱげの耳かき大好き怪人耳かき男とか、嫁さんが実は幽霊だったんだけどお金持ちのお嬢さんで自分と会うまで処女だったことさえ本当なら「生きてるか死んでるかなんて小さなことさ」と言い切る旦那さんとか、カワイイ女の子がいっぱいるけど校長が朝礼で「悲しいお知らせ」して曰く実は男子校だった高校とか、女の子が読者の耳かきをしてくれる特殊機能付きの立体四コマとか、人魚と愛し合って求婚してはみたものの産み落とした卵の上に発射しろと言われて怒り心頭の人間男性とか、巫女の衣装をみると情熱がおさえられない体質の男とか、ベタなものから余人には考えつかないようなものまで、ちょっと頭のおかしい変態的なキャラクターとか場所とか状況が満載のステキ変態作品集でもあります。
とりあえず耳かき男は他人の耳クソ奪うよりは自分の耳クソを耳に戻して再利用するほうが手っ取り早い気がするのですが、別に耳かき男はどうでも良いので置いておいて、この短編集中に『電化製品に乾杯!』なる作品があります。なお電化製品と書いてアンドロイドと読みます。
で、話の内容ですが、女性型アンドロイドを購入するために電機屋に足を踏み入れたとある男性をめぐるアンドロイド達のひと騒動。機能重視の武骨な非女性型アンドロイドによる「女性型アンドロイドなど、しょせんはまやかし!現実の女性の代わりにはならないのです!!」との指摘にもめげず、顔のカバーを剥がせばカメラやコードがグロテスクにうごめく「まがいものの女」のメカメカした「気持ち悪い」現実を突きつけられても動じず、彼は、結局、一生懸命いぢらしく働く女性型アンドロイド、ミソッカス90Fを前に、「それでもかわいい!!買う!!!」と力強く言い放ち、彼女を購入します。まあ、この男性、物心ついて以来アンドロイド入手に向けて貯金を続けたという現実の女性の代わりにアンドロイドなんてレベルじゃない剛の者ですし、本物の女も皮一枚剥がせば縦横に走る筋繊維も生々しいグロテスクな物体に過ぎないことは、作中で別の女性型アンドロイド、ソミーHF9000が指摘する通りですから、購入は当然の決断と言えるでしょう。そして保証期間が切れたとたんに彼女が故障するまでの間、彼は、本人曰く「幸福」に暮らすという、ちょっと切ないラヴストーリーギャグマンガ。
ところで、椎名先生は「ロボット美少女パーツ欠損フェチなるやっかいな性癖」(2007/09/23 ■人形になってもパンチラを披露する葵の勇姿を僕たちはきっと忘れないサンデー42号絶チル感想(椎名高志ファンホームページ C-WWW)http://whatsnew.c-www.net/comic/zettai/0742.htm)の持ち主という説がありますが、顔のカバーの外れたアンドロイドは先生ご本人としてはどうなのか、ちょっと気になりますね。さすがに顔カバーの欠損は特殊性癖持ちの先生をもってしてもアウトなのか、じつは顔カバーがはずれて内部構造むき出しのほうが先生的に一押しで「それでもかわいい!!」ではなく本音は「それだからかわいい!!」なのか。
さすがに顔カバーの欠損はアウトだと思うのですが…。
やはり欠損は手首が外れてコードが出てるとか、右手が無いからしかたなくドリルをつけるって程度に留めるほうが良いと思うんですよ。
なお、いじらしくかわいいロボットとのつかの間の幸せな恋物語という点で、この作品は、90年代後半のゲーム『To Heart』に登場したメイドロボHMX-12マルチの遙かな先駆を成す作品となっています。椎名先生ご自身も楽しそうにマルチを「バッタもん」呼ばわりしてますしね(「椎名百貨店the web」の「漫画&落書き」コーナーにある「看板娘行進曲01」http://www.ne.jp/asahi/cna100/store/manga/kanbanmusme/kanban01.htmを参照)。
それにしても「それでもかわいい!!買う!!!」という思い切りの良い非人間愛の宣言は、後の『GS美神 極楽大作戦!!』で幽霊のおキヌちゃんという大人気ヒロインを描いて「「死んでるおキヌちゃんが好き」とゆー一部病んだファンの方々」(20巻カバー作者コメント)を大量生産し、作品中の人気のヒロインといえば幽霊と蛍の魔物と狐の妖怪という非人間愛極まる状況を作り出した、椎名先生の真骨頂というべきではないかと思います。
作品のストーリ上のクライマックスいわゆる「アシュタロス編」における蛍の魔物ルシオラの人気および作品末期における狐の妖怪タマモの人気については「椎名高志ファンホームページ C-WWW」の以下の記述を参照
「アシュタロス編の真の主役とも言うべきルシオラ」
ルシオラ・オンライン総集編
1998: The Age of Lucciola - ルシオラの時代
http://c-www.net/bon/lol/age.html
「タマモの一人勝ち」
99/ 7/21
http://c-www.net/newold19.html
余談ながら死んでないおキヌちゃんは「ちょっとどじなクラスメートの女のコ、「みかんちゃん」」(28巻189頁)程度のみんなから好かれるだけの「バカバカしいまでに都合のいい設定」(同巻同頁)のあざとくピュアな凡庸ヒロインに成り下がってる気がしないでもないので、やっぱりおキヌちゃんは死んで包丁研ぎながら怪しく笑ってるほうが良いのではないかなあとか思ったり…。
さて、『電化製品に乾杯!』が高らかに謳い上げた女性型アンドロイドへの愛は、その時点ではまだギャグの衣に包まれていたものの、数年後『To Heart』のメイドロボHMX-12マルチ登場を経て、ギャグの衣を脱ぎ捨てた真剣な思いの形で、大いに社会に拡散共有されるに至り、女性型アンドロイドによって現実を超えた最高のヒロインを生みだそうという夢は、もはや民族共通の意志と言っても過言ではないでしょう。いくらロボット大好き日本人とはいえ、十万馬力の機械なんて危ない物体や青いタヌキの動く置物を本気でご家庭に導入したがる方など、そんなに多くいるはずもなし。「日本じゃそんなだっせーオモチャはもはや幼児しか遊ばん!!我が国のオモチャはもっと進化しているのだ!!」(椎名高志著『絶対可憐チルドレン』105話)そう、本音としては、みんなマルチやミソッカスが欲しいのです。
そんな状況ですから、ここで、女性型アンドロイド、メイドロボに繋がる精神の系譜を振り返ってみるのも、一興ではないかと思います。とりあえず現代日本文化は、日本的感性によって変奏した西洋文化ですから、振り返る対象は西洋文学史といたしましょう。別に文学は好きでも詳しくもないので全てを網羅した完璧なものなどとても書けませんが、直接読んだことのある物語に何かの折りに間接的に知った物語を加えて、時代順にいくつか並べて紹介を。
本音を言えば『電化製品に乾杯!』についてちょっと語りたかっただけなのですが、歴史サイトのブログという体裁を繕うため、ずいぶんと話が大きくなってきました。
まず思い当たるのは『聖書』の神が人間を創造する物語でしょう。「神はご自分にかたどって人を創造」することにし、土を材料に男を創られたが、その後その男を元にさらに「女を造り上げられた」とか(引用は『聖書 新共同訳』「創世記」)。この自らの姿を元に新たな生命を創造する営みは、神の立場から見れば、まさに人がアンドロイドを創るようなもの。そして神が、完成した自らの似姿を元にして、さらに「女」なる未だ現実化せぬ新たな美を造形した姿は、人が現実を超えたまだ見ぬ理想の美女をメイドロボ創造によって目指すがごとし。それにしても男が女に誘惑されて神の言うことを聞かなくなる辺り、この創造は救いようのない大失敗ですが、外観の造形という点に限れば巧く行きすぎていたと言うべきでしょうか。
また神話の物語であれば、オウィディウスが『変身物語』で伝えるギリシア神話、生身の女の欠点にウンザリしていたキプロス王ピュグマリオンが象牙彫刻の美女を創りだし、日々彫刻に語りかけ口づけ愛撫する奇行を続けた挙げ句、神に祈って彫刻を生身の女に変えてもらった話は有名ではないかと思います。ただし、ピュグマリオンは神に祈る際に言い間違えて、象牙の乙女ではなく、「象牙の乙女に似た女」(『オウィディウス 変身物語 (下)』中村善也訳 岩波文庫 75頁)が欲しいと訴えたらしいので、彼の手に入れた女がはたして元彫刻なのか、彫刻と入れ替えられた別の生身の女なのかはよく分からず、これがメイドロボにつながる物語と言うには少々ためらわれます。だいたい動かぬ彫刻を創った後で、改めて神に祈って生かしてもらうなんてのは、自らの技術と英知で新たな生命を創造しようという気概にいまいち欠けており、この点でもメイドロボにつながる物語の系譜に組み入れるのは少々問題ありでしょう。
古代世界のメイドロボ物語としてはこれよりも、ギリシア神話のダイダロスの手になる体内の水銀によって動作し夜中に人間との情交にふけるウェヌス像のほうがふさわしいと思われます。またローマの魔術師ウェルギリウスのウェヌス像の物語もあります。すなわち魔術師ウェルギリウスが、女神ウェヌスをかたどった精巧な性愛機械を造り上げ、男達が自由に使用できるようローマの広場に公開していたという伝説があるとか。メイドロボへの願望の中に、ある程度の性的な要素が含まれていることは否定できない事実ですから、これらの伝説はメイドロボ物語の系譜に加えても問題ないかと思います。
その後の中世においてもウェヌス像がらみの物語は存在しており、命を持って男に迫る像の話なんかがあるようですが、今欲しいのは像を創って使った話ですからこれはさておき、この時代の物語としては、アルベルトゥス・マグヌスの機械人形の話でも挙げておきましょう。13世紀の大学者にして大魔術師アルベルトゥス・マグヌスは、機械人間を下男として使用していたが、騒音が酷く勉学の邪魔であるとアルベルトゥスの弟子のトマス・アクィナスによって破壊されたという伝説がそれです。メイドロボの役目は性的なものだけではなく、むしろ諸々の日常業務を担当させることが主目的でしょうから、下男ではあれど、これもメイドロボに至る系譜上の物語とは言えるでしょう。
長くなったので一度切ります。
残りは後編
後編はこちら(http://trushnote.exblog.jp/7543388/)
参考資料
後編を参照
関連記事(2009年5月17日新設)
スイーツ(笑)断罪 1330 ~リアル女はノー・センキュー 僕はフィクションに恋をする~ 徒然草の恋愛論
「二次をつかむ男」~美女のフィギュアや絵を愛した前近代東洋人たちの話~
偉大なるダメ人間シリーズ番外その2 等身大幼女フィギュアを抱えて動き回る変態武闘派哲学者?
れきけん・とらっしゅばすけっと/京都大学歴史研究会関連発表
トマス・アクイナス
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1999/991126.html
日本民衆文化史
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html
エロゲーを中心とする恋愛ゲームの歴史に関するごく簡単なメモ
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/s2004/050311.html
by trushbasket
| 2007-10-03 20:34
| My(山田昌弘)