2007年 11月 07日
外国から見た日本、日本から見た外国―娯楽文化の視点から―(後半)
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前半はこちら(http://trushnote.exblog.jp/7660059/)。
前半から、外国の日本へのイメージは良くも悪くもかなり偏っているのが分かりましたが、後半では日本が外国に対してどんなイメージを抱いていかを考察します。世界各国を代表するキャラクターが登場し娯楽作品として一定以上の人気を獲得した作品という観点からすると、「キン肉マン」や「機動武闘伝Gガンダム」辺りがサンプルとして適切ではないかと思います。特に「キン肉マン」は登場キャラクターを読者投稿から採用していますから、一般的な各国へのイメージを知る上でより適切といえます。そこで、以下では両作を中心に娯楽作品で描かれる主な各国イメージを列挙してみます。因みに「キン肉マン」は主人公や友情で結ばれた正義超人たちが悪魔超人などを相手にプロレスで戦う勧善懲悪物語で、「Gガンダム」は人類の覇権を巡って各国代表のガンダムが地球をリングにしてプロレスをする話です。…どっちもプロレスかいな。では見て見ましょう。
アメリカ:「キン肉マン」のテリーマンは、大体以下のような特徴があるといえそうです。
・力こそ正義と信じクールでビジネスライクだが根は無邪気で単純
・西部劇に登場するカウボーイのような装束で描かれる事も
・主人公の味方になってからは熱血な人情家となる
「Gガンダム」のチボデーも確か似たようなものだったと思いますが、特にテリーマンは初期には助けを求めてきた子供に報酬を要求し相手がなけなしの小遣い(子供ですからごく小額)を差し出すと引っ叩いて「ボーイ、大人をからかっちゃいけないよ」と嘲弄する金の亡者だったのが、いつの間にやらキン肉マンへの友情命の浪花節キャラになるという変貌ぶりが印象的でした。
イギリス:優雅で洗練された紳士だが裏の顔を持つ。「キン肉マン」のロビンマスクは「リングの貴公子」と呼ばれた実力者ですが、キン肉マンに対抗意識を燃やしていた時期には「バラクーダ」を名乗りソ連(当時)出身のウォーズマンを調教して鍛え残虐ファイトをさせていました。その際には観客、女性相手に暴力を振るう事も辞さない鬼畜っぷりを見せています。「Gガンダム」のチャップマンも優勝を何度も経験した実力者ですが、力の衰えを補うため卑劣な戦法に依存する悪役キャラとして描かれています。
ドイツ:「キン肉マン」に登場するブロッケンマンとブロッケンJr.親子は、髑髏印の帽子に鉤十字というどう考えてもナチスにしか見えない格好で登場します。おまけにブロッケンマンは毒ガスを吐くという戦法を披露している有様。海外で「キン肉マン」が放映禁止にされた事があるのは、この親子が原因だそうです。そりゃそうですね。あと、ドイツにはミリタリーなイメージがもたれていますが、「キン肉マン」にも戦車をかたどったレオパルドンという超人が登場しています。なお、このレオパルドンはキン肉星王位継承者決定戦の出場選手に選ばれた栄えある立場のはずですが対戦相手に瞬殺され登場期間5コマ、台詞も「次鋒レオパルドンいきます!!」「グオゴゴゴ」「ギャアーッ」の3つという悲惨な扱いで伝説になっています。
スペイン:「キン肉マン」では頭に二本の角を持ったバッファローマンが、「Gガンダム」では胴体に牛の顔をあしらったマタドールガンダムが登場しています。両作品とも、スペインといえば闘牛と考えているようですね。バッファローマンが実力者として描かれているのに対してマタドールガンダムは作品中で一度も勝てなかった弱小キャラという違いはありますが。
オランダ:「Gガンダム」のネーデルガンダムは、風車の形をしています。
ギリシア:「キン肉マン」のパルテノン、「Gガンダム」のゼウスガンダムと古代の神殿だったり古代の神だったりします。
中国:「Gガンダム」のサイ・サイシー、「キン肉マン」のラーメンマンとも少林寺系統の拳法使いです。「Gガンダム」でいえば、主人公の師匠・マスターアジア(ネオホンコン代表)も似たような文脈で見ても良いでしょう。いずれも実力者として描かれ、中国への長年にわたる憧れ・敬意を見て取る事ができます。ただ、問題はラーメンマンの描かれ方で、辮髪・鰌ヒゲ・つり眼をしており額に「中」の字が刻まれた姿というどう考えても何かが間違ったイメージです。おまけに、アニメ版では対戦相手をラーメンにして食べてしまうという描写があり、中国における食人文化(参考:http://trushnote.exblog.jp/7602405/、http://trushnote.exblog.jp/7619211/)を考慮すると気まずいものがありますね。追記すると、作中で隈取をしたマスクをかぶってモンゴルマンを名乗った時期もあります。中国とモンゴルの区別がついていない人が少なくないという現実が垣間見えます。また、「キン肉マン」派生作品である「闘将!拉麺男」では「美来斗利偉・拉麺男(ビクトリー・ラーメンマン)」などと名乗っていたりもします。一昔前のいわゆる「暴走族」じゃないんですから。漢字を適当に並べると中国っぽく見える、という感覚を反映していますね。
インド:「キン肉マン」にはカレクックという頭にカレーライスの皿を載せた超人が登場します。残虐超人という触れ込みでしたが、その技といえば敵の負傷した場所にカレーを塗りこんで痛がらせるという微妙な代物でした。「Gガンダム」ではコブラ使いに操られて壷から現れるコブラガンダムが登場しています。インドのイメージといえばカレーとコブラ使いなんでしょうか。また「魁!!男塾」ではゾウに乗った正体不明のヨガの達人も登場しています。ありえない体の動きを見せても、「ヨガを極めた成果」といえば何となく説得力があるような気がしますよね。格闘ゲーム「ストリートファイターⅡ」にもそういえばそんなキャラがいたような。
アフリカ:シマウマなど野生動物。余り個々の国は意識されていないようです。
ロシア:「キン肉マン」のウォーズマンと「Gガンダム」のボルゴ。根は純粋だが暗い過去を持ち何らかの事情で冷酷な戦闘機械にされたキャラ、というところでしょうか。しかし、冷戦期において少なからぬ知識人が「ソ連は侵略国家ではない、平和愛好国だ」と親ソ的な言動をしていた時期にソ連代表が「ウォーズマン(戦争男)」というのは気まずいことこの上ありません(まあ、直接的にはスター・ウォーズを真似たんでしょうが)。おまけにこのウォーズマン、アメリカ代表の「ペンタゴン(国防総省)」という名の超人を残虐な戦いぶりで破っていたりしますから洒落にならなすぎです。
アラブ諸国:「キン肉マン」にサウジアラビア出身としてオイルマンというドラム缶を模した超人が登場。必殺技は「オイルリバー・スリップ」だそうですがどんな技なのやら。あ、そういえば超人オリンピックの長距離走でゴール直前で転倒して石油をこぼし、他のランナーも釣られて滑って転んでいましたがあれのことなんでしょうか、ひょっとして。ともかくまあ、日本人にとって、アラブといえばイメージはまず石油のようです。日常的に文化に触れる機会が少ない一方で、生活必需品である石油を依存している先ですから無理もありませんが。
エジプト:「キン肉マン」に登場するミスターカーメンはファラオの格好をしてピラミッドパワーを力の源とし、敵をミイラにするミイラパッケージが必殺技。「Gガンダム」に登場するのもファラオガンダムなるキャラクターです。双方とも古代エジプト文明のイメージで、現代エジプトがアラブ国家である事には全く触れられていません。
…日本も他国を笑えませんね。実に見事なまでに偏見に溢れています。特にドイツに関しては国際問題に発展しても不思議ではありません。考えてみれば、戦前の娯楽文化でも敵国を侮蔑して戦意高揚する目的の作品は存在しましたし、侮蔑的な意味がない例でも北原白秋「邪宗門」のように勝手なイメージを投影した異国趣味の文学作品が存在する訳です。もっとも、「キン肉マン」のように日本自身をも「スモウレスラー、ニンジャ」といった海外のイメージに準じて描く例もありますし、こうしたステレオタイプなキャラクターが主人公と友情で結ばれ正義の味方として活躍する事も珍しくありません。必ずしも日本を相対的に持ち上げるためだったり悪意によるものだったりとはいえないのです。これも海外における例と同じですね。ただいずれにせよ、他国への偏見については日本もどうこう言えません。変なイメージを知らず知らずのうちに植えつけられていないか、振り返ってみる必要がありそうです。まあ、だからといってこれらの作品が娯楽として価値がない事にはなりません。寧ろこれらの作品でイメージが強められたとしたら、それだけ娯楽作品として広く受け入れられた証ともいえます。無闇に排撃するのではなくある程度正確な実像を知った上でステレオタイプぶりやギャップを楽しむのが正しい受け入れ方だと思いますよ。
そういえば、「日本を勘違いした外国人」を演じた上で遊ぶ「ゲイシャガール・ウィズ・カタナ」というボードゲームが存在するようですが、「日本を勘違いした外国人」というイメージもある程度は日本人による外国人へのステレオタイプが入っているのかもしれませんな。
さて、こうしたステレオタイプな偏見が娯楽作品でまかり通るのはなぜなのか。それを考えるため、能楽大成者・世阿弥の記した「風姿花伝」の一説を引用してみます。
つまり、中国風に見せるためには、本当に似せても観客には面白くないし似せようもないのだから、ほんの少しそれらしさ・異国らしさがまじればそれでよい、ということですね。これは世阿弥だけの考え方ではなく、「難波土産」によれば徳川期の近松門左衛門も似たような内容の事を言っているようです(「虚実皮膜論」と通称されます)。
これもまた、本当に似せると面白くないのでそれらしい所を部分的に似せるのがよいと言っていますね。総合すると、受け手である一般庶民が受け入れやすいようにイメージを優先して描くという事だといえそうです。そうして消費者が抱くイメージに従う事で受け入れやすくし、そしてそのため更にそうしたイメージが固まる、そういった構図がある気がします。日本国内に限って考えても、例えば関西には「お笑い、たこ焼き、ヤクザ」といった偏見が広く見られているのも同様な要因があると思われます。分かった上でネタとして楽しむのは良いですが、そのまま事実として受け入れたり受け入れられたりと言うのはやっぱり問題があると思います。当事者としては愉快でないものだって多いですから。お互い、正しい姿を理解するよう努め、誤ったイメージについては正していく。余計な敵意や変な期待を持つ事を避け不要な摩擦を起さないためにも、それが重要であると思います。
【参考文献】
「ニューズウィーク日本版 2005年12月14日 阪急コミュニケーションズ」より「日本を誤訳するアメリカ」「ハリウッドが紡ぐ幻想の日本」
日本映画史 佐藤忠男 岩波書店
アメリカ映画に現れた「日本」イメージの変遷 増田幸子 大阪大学出版会
映画のなかのアメリカ 藤原帰一 朝日新聞社
真夜中のミステリー読本 藤原宰太郎 ワニ文庫
パルプマガジン 荒俣宏 平凡社
ハリウッド100年のアラブ 村上由見子 朝日選書
キン肉マン超人大全 ゆでたまご 集英社
魁!!男塾である!! 集英社
大人のガンダム3 日経キャラクターズ!編 日経BPムック
風姿花伝 世阿弥著 野上豊一郎・西尾実校訂 岩波文庫
他に、関連サイトで挙げたHPも参考にしています。
関連記事(2009年5月17日新設)
カナダ史概観―苦悩と叡智と―(前半)
提督達の見たヘタリア ~イタリアは乞食、コソ泥、ごろつき、売女~
三島由紀夫について少し述べる~日本近代文学の幕を下ろす男~
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「西洋民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021108.html)
「中国民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020607.html)
「インド民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020614a.html)
「イスラム民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020614b.html)
「日本民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
関連サイト:
「ストレンジャー・ザン・ジャパニーズ」
(http://www.toyama-cmt.ac.jp/~kanagawa/cinema/gaikokueiga.html)
「DEBUMOVIE」(http://ueno.cool.ne.jp/chiro_san/movieindex.htm)
Techan's Page Summer
(http://www014.upp.so-net.ne.jp/cinemania/index.htm)
より「CINEMA FAN」
Falling Down(http://www.geocities.jp/s_leg_666/top.html)
「史劇的な物見櫓」
(http://www2s.biglobe.ne.jp/~tetuya/REKISI/REKISIMENU.HTML)
より「歴史映像名画座」
以上からは、日本が登場する海外映画について知る事ができます。前半は主にこちらの諸サイトによっています。
「肉で行こう!!」
(http://www.geocities.co.jp/AnimeComic/1630/)
キン肉マンのファンサイトです。キン肉マン関連用語解説の「肉辞苑」などがあります。
「このごろ堂」(http://www.game-writer.com/konogoro/index.html)より
「ゲイシャガール・ウィズ・カタナ」(http://www.game-writer.com/konogoro/game/ggwk/menu.html)
「歌舞伎素人講釈」(http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/index.htm)より
「近松門左衛門について」(http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/geitohito20.htm)
「虚実皮膜論」についても述べられています。
前半から、外国の日本へのイメージは良くも悪くもかなり偏っているのが分かりましたが、後半では日本が外国に対してどんなイメージを抱いていかを考察します。世界各国を代表するキャラクターが登場し娯楽作品として一定以上の人気を獲得した作品という観点からすると、「キン肉マン」や「機動武闘伝Gガンダム」辺りがサンプルとして適切ではないかと思います。特に「キン肉マン」は登場キャラクターを読者投稿から採用していますから、一般的な各国へのイメージを知る上でより適切といえます。そこで、以下では両作を中心に娯楽作品で描かれる主な各国イメージを列挙してみます。因みに「キン肉マン」は主人公や友情で結ばれた正義超人たちが悪魔超人などを相手にプロレスで戦う勧善懲悪物語で、「Gガンダム」は人類の覇権を巡って各国代表のガンダムが地球をリングにしてプロレスをする話です。…どっちもプロレスかいな。では見て見ましょう。
アメリカ:「キン肉マン」のテリーマンは、大体以下のような特徴があるといえそうです。
・力こそ正義と信じクールでビジネスライクだが根は無邪気で単純
・西部劇に登場するカウボーイのような装束で描かれる事も
・主人公の味方になってからは熱血な人情家となる
「Gガンダム」のチボデーも確か似たようなものだったと思いますが、特にテリーマンは初期には助けを求めてきた子供に報酬を要求し相手がなけなしの小遣い(子供ですからごく小額)を差し出すと引っ叩いて「ボーイ、大人をからかっちゃいけないよ」と嘲弄する金の亡者だったのが、いつの間にやらキン肉マンへの友情命の浪花節キャラになるという変貌ぶりが印象的でした。
イギリス:優雅で洗練された紳士だが裏の顔を持つ。「キン肉マン」のロビンマスクは「リングの貴公子」と呼ばれた実力者ですが、キン肉マンに対抗意識を燃やしていた時期には「バラクーダ」を名乗りソ連(当時)出身のウォーズマンを調教して鍛え残虐ファイトをさせていました。その際には観客、女性相手に暴力を振るう事も辞さない鬼畜っぷりを見せています。「Gガンダム」のチャップマンも優勝を何度も経験した実力者ですが、力の衰えを補うため卑劣な戦法に依存する悪役キャラとして描かれています。
ドイツ:「キン肉マン」に登場するブロッケンマンとブロッケンJr.親子は、髑髏印の帽子に鉤十字というどう考えてもナチスにしか見えない格好で登場します。おまけにブロッケンマンは毒ガスを吐くという戦法を披露している有様。海外で「キン肉マン」が放映禁止にされた事があるのは、この親子が原因だそうです。そりゃそうですね。あと、ドイツにはミリタリーなイメージがもたれていますが、「キン肉マン」にも戦車をかたどったレオパルドンという超人が登場しています。なお、このレオパルドンはキン肉星王位継承者決定戦の出場選手に選ばれた栄えある立場のはずですが対戦相手に瞬殺され登場期間5コマ、台詞も「次鋒レオパルドンいきます!!」「グオゴゴゴ」「ギャアーッ」の3つという悲惨な扱いで伝説になっています。
スペイン:「キン肉マン」では頭に二本の角を持ったバッファローマンが、「Gガンダム」では胴体に牛の顔をあしらったマタドールガンダムが登場しています。両作品とも、スペインといえば闘牛と考えているようですね。バッファローマンが実力者として描かれているのに対してマタドールガンダムは作品中で一度も勝てなかった弱小キャラという違いはありますが。
オランダ:「Gガンダム」のネーデルガンダムは、風車の形をしています。
ギリシア:「キン肉マン」のパルテノン、「Gガンダム」のゼウスガンダムと古代の神殿だったり古代の神だったりします。
中国:「Gガンダム」のサイ・サイシー、「キン肉マン」のラーメンマンとも少林寺系統の拳法使いです。「Gガンダム」でいえば、主人公の師匠・マスターアジア(ネオホンコン代表)も似たような文脈で見ても良いでしょう。いずれも実力者として描かれ、中国への長年にわたる憧れ・敬意を見て取る事ができます。ただ、問題はラーメンマンの描かれ方で、辮髪・鰌ヒゲ・つり眼をしており額に「中」の字が刻まれた姿というどう考えても何かが間違ったイメージです。おまけに、アニメ版では対戦相手をラーメンにして食べてしまうという描写があり、中国における食人文化(参考:http://trushnote.exblog.jp/7602405/、http://trushnote.exblog.jp/7619211/)を考慮すると気まずいものがありますね。追記すると、作中で隈取をしたマスクをかぶってモンゴルマンを名乗った時期もあります。中国とモンゴルの区別がついていない人が少なくないという現実が垣間見えます。また、「キン肉マン」派生作品である「闘将!拉麺男」では「美来斗利偉・拉麺男(ビクトリー・ラーメンマン)」などと名乗っていたりもします。一昔前のいわゆる「暴走族」じゃないんですから。漢字を適当に並べると中国っぽく見える、という感覚を反映していますね。
インド:「キン肉マン」にはカレクックという頭にカレーライスの皿を載せた超人が登場します。残虐超人という触れ込みでしたが、その技といえば敵の負傷した場所にカレーを塗りこんで痛がらせるという微妙な代物でした。「Gガンダム」ではコブラ使いに操られて壷から現れるコブラガンダムが登場しています。インドのイメージといえばカレーとコブラ使いなんでしょうか。また「魁!!男塾」ではゾウに乗った正体不明のヨガの達人も登場しています。ありえない体の動きを見せても、「ヨガを極めた成果」といえば何となく説得力があるような気がしますよね。格闘ゲーム「ストリートファイターⅡ」にもそういえばそんなキャラがいたような。
アフリカ:シマウマなど野生動物。余り個々の国は意識されていないようです。
ロシア:「キン肉マン」のウォーズマンと「Gガンダム」のボルゴ。根は純粋だが暗い過去を持ち何らかの事情で冷酷な戦闘機械にされたキャラ、というところでしょうか。しかし、冷戦期において少なからぬ知識人が「ソ連は侵略国家ではない、平和愛好国だ」と親ソ的な言動をしていた時期にソ連代表が「ウォーズマン(戦争男)」というのは気まずいことこの上ありません(まあ、直接的にはスター・ウォーズを真似たんでしょうが)。おまけにこのウォーズマン、アメリカ代表の「ペンタゴン(国防総省)」という名の超人を残虐な戦いぶりで破っていたりしますから洒落にならなすぎです。
アラブ諸国:「キン肉マン」にサウジアラビア出身としてオイルマンというドラム缶を模した超人が登場。必殺技は「オイルリバー・スリップ」だそうですがどんな技なのやら。あ、そういえば超人オリンピックの長距離走でゴール直前で転倒して石油をこぼし、他のランナーも釣られて滑って転んでいましたがあれのことなんでしょうか、ひょっとして。ともかくまあ、日本人にとって、アラブといえばイメージはまず石油のようです。日常的に文化に触れる機会が少ない一方で、生活必需品である石油を依存している先ですから無理もありませんが。
エジプト:「キン肉マン」に登場するミスターカーメンはファラオの格好をしてピラミッドパワーを力の源とし、敵をミイラにするミイラパッケージが必殺技。「Gガンダム」に登場するのもファラオガンダムなるキャラクターです。双方とも古代エジプト文明のイメージで、現代エジプトがアラブ国家である事には全く触れられていません。
…日本も他国を笑えませんね。実に見事なまでに偏見に溢れています。特にドイツに関しては国際問題に発展しても不思議ではありません。考えてみれば、戦前の娯楽文化でも敵国を侮蔑して戦意高揚する目的の作品は存在しましたし、侮蔑的な意味がない例でも北原白秋「邪宗門」のように勝手なイメージを投影した異国趣味の文学作品が存在する訳です。もっとも、「キン肉マン」のように日本自身をも「スモウレスラー、ニンジャ」といった海外のイメージに準じて描く例もありますし、こうしたステレオタイプなキャラクターが主人公と友情で結ばれ正義の味方として活躍する事も珍しくありません。必ずしも日本を相対的に持ち上げるためだったり悪意によるものだったりとはいえないのです。これも海外における例と同じですね。ただいずれにせよ、他国への偏見については日本もどうこう言えません。変なイメージを知らず知らずのうちに植えつけられていないか、振り返ってみる必要がありそうです。まあ、だからといってこれらの作品が娯楽として価値がない事にはなりません。寧ろこれらの作品でイメージが強められたとしたら、それだけ娯楽作品として広く受け入れられた証ともいえます。無闇に排撃するのではなくある程度正確な実像を知った上でステレオタイプぶりやギャップを楽しむのが正しい受け入れ方だと思いますよ。
そういえば、「日本を勘違いした外国人」を演じた上で遊ぶ「ゲイシャガール・ウィズ・カタナ」というボードゲームが存在するようですが、「日本を勘違いした外国人」というイメージもある程度は日本人による外国人へのステレオタイプが入っているのかもしれませんな。
さて、こうしたステレオタイプな偏見が娯楽作品でまかり通るのはなぜなのか。それを考えるため、能楽大成者・世阿弥の記した「風姿花伝」の一説を引用してみます。
これは、およそ、各別の事なれば、(定めて稽古すべき形木もなし。ただ)肝要、出立なるべし。また、面をも、同じ人と申しながら、模様の変りたらんを着て、一体異様したるように風体を持つべし。劫入りたる為手に似合う物なり。ただ、出立を唐様にするならでは、手立なし。何としても、音曲も、働きも、唐様と云ふ事は、誠に似せたりとも、面白くもあるまじき風体なれば、ただ、一模様(心得ん)までなり。
この、異様したると申す事など、かりそめながら、諸事に亙る公案なり。何事か異様してよかるべきかなれども、およそ、唐様をば何とか似すべきなれば、常の振舞に風体変れば、何となく唐びたるように外目に見なせば、やがて、それに成るなり。(岩波文庫「風姿花伝」P36,37)
つまり、中国風に見せるためには、本当に似せても観客には面白くないし似せようもないのだから、ほんの少しそれらしさ・異国らしさがまじればそれでよい、ということですね。これは世阿弥だけの考え方ではなく、「難波土産」によれば徳川期の近松門左衛門も似たような内容の事を言っているようです(「虚実皮膜論」と通称されます)。
芸といふものは実と虚との皮膜の間にあるもの也。あるほど今の世実事によくうつすを好む故、家老は真の家老の身ぶり口上をうつすとはいへども、さらばとて真の大名の家老などが立役のごとく顔に紅脂白粉をぬる事ありや。また真の家老は顔をかざらぬとて、立役がむしゃむしゃと髭は生なり、あたまは剥なりに舞台に出て芸をせば、慰にあるべきや。皮膜の間といふが此也。
(こちらより引用)
これもまた、本当に似せると面白くないのでそれらしい所を部分的に似せるのがよいと言っていますね。総合すると、受け手である一般庶民が受け入れやすいようにイメージを優先して描くという事だといえそうです。そうして消費者が抱くイメージに従う事で受け入れやすくし、そしてそのため更にそうしたイメージが固まる、そういった構図がある気がします。日本国内に限って考えても、例えば関西には「お笑い、たこ焼き、ヤクザ」といった偏見が広く見られているのも同様な要因があると思われます。分かった上でネタとして楽しむのは良いですが、そのまま事実として受け入れたり受け入れられたりと言うのはやっぱり問題があると思います。当事者としては愉快でないものだって多いですから。お互い、正しい姿を理解するよう努め、誤ったイメージについては正していく。余計な敵意や変な期待を持つ事を避け不要な摩擦を起さないためにも、それが重要であると思います。
【参考文献】
「ニューズウィーク日本版 2005年12月14日 阪急コミュニケーションズ」より「日本を誤訳するアメリカ」「ハリウッドが紡ぐ幻想の日本」
日本映画史 佐藤忠男 岩波書店
アメリカ映画に現れた「日本」イメージの変遷 増田幸子 大阪大学出版会
映画のなかのアメリカ 藤原帰一 朝日新聞社
真夜中のミステリー読本 藤原宰太郎 ワニ文庫
パルプマガジン 荒俣宏 平凡社
ハリウッド100年のアラブ 村上由見子 朝日選書
キン肉マン超人大全 ゆでたまご 集英社
魁!!男塾である!! 集英社
大人のガンダム3 日経キャラクターズ!編 日経BPムック
風姿花伝 世阿弥著 野上豊一郎・西尾実校訂 岩波文庫
他に、関連サイトで挙げたHPも参考にしています。
関連記事(2009年5月17日新設)
カナダ史概観―苦悩と叡智と―(前半)
提督達の見たヘタリア ~イタリアは乞食、コソ泥、ごろつき、売女~
三島由紀夫について少し述べる~日本近代文学の幕を下ろす男~
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「西洋民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021108.html)
「中国民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020607.html)
「インド民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020614a.html)
「イスラム民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020614b.html)
「日本民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
関連サイト:
「ストレンジャー・ザン・ジャパニーズ」
(http://www.toyama-cmt.ac.jp/~kanagawa/cinema/gaikokueiga.html)
「DEBUMOVIE」(http://ueno.cool.ne.jp/chiro_san/movieindex.htm)
Techan's Page Summer
(http://www014.upp.so-net.ne.jp/cinemania/index.htm)
より「CINEMA FAN」
Falling Down(http://www.geocities.jp/s_leg_666/top.html)
「史劇的な物見櫓」
(http://www2s.biglobe.ne.jp/~tetuya/REKISI/REKISIMENU.HTML)
より「歴史映像名画座」
以上からは、日本が登場する海外映画について知る事ができます。前半は主にこちらの諸サイトによっています。
「肉で行こう!!」
(http://www.geocities.co.jp/AnimeComic/1630/)
キン肉マンのファンサイトです。キン肉マン関連用語解説の「肉辞苑」などがあります。
「このごろ堂」(http://www.game-writer.com/konogoro/index.html)より
「ゲイシャガール・ウィズ・カタナ」(http://www.game-writer.com/konogoro/game/ggwk/menu.html)
「歌舞伎素人講釈」(http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/index.htm)より
「近松門左衛門について」(http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/geitohito20.htm)
「虚実皮膜論」についても述べられています。
by trushbasket
| 2007-11-07 23:09
| NF








