2008年 04月 01日
ヘタレ力 in 日本史
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『ToHeart2 AnotherDays』(Leaf)でメイドロボのイルファさんは主人公を評して言いました。
エロゲの主人公は、やれば出来るといった作中の評価とか設定上の有能さはともかく、読み手から見れば、基本的に意欲や能力に甚だ欠ける、ぼんやり微妙な引きこもり臭い人間が多いわけですが、それがヘタレ呼ばわりされるのは至極当然の評価ではないかと思います。
エロゲが基本的にずらり並んだ複数ヒロインにモテモテって幻想を売りさばく商売である以上、主人公の基本造形が、どのヒロインにでも合わせて好きなように恋愛活動可能な、物理的に何の拘束もなく人格的に何の個性も意欲もなく能力的にたいした特徴のない、色々フリーダムな人間となるのはやむを得ないことです。しかもプレイヤーを、主人公を通じて、エロゲ界に巧く移入させヒロインと接触させるにはプレイヤーの自己イメージと抵触してしまう余計な個性なんかを持たない空虚な主人公こそが最良の造形ともいえるわけです。
とはいえ、それが最良の造形であってもヘタレはヘタレ、ヘタレがモテモテの納得のいかなさは、逃れられないならせめて皮肉の一つでも言いたくなるところであります。
というわけでヘタレ力というのは、皮肉っぽくてなかなか良い感じの名前であるとは言えましょう。
ところで、この「ヘタレ力」とヘタレ力の生み出すモテモテワールド、一般人の人々が見れば、キモいオタクのダメ妄想パワーが生み出した、末期的な逝っちゃった物語として、軽蔑の対象となるのかもしれません。ところがヘタレ→モテモテの夢時空は、現代エロゲに限ったことではなく、日本古来よりの伝統でさえあったりします。
なんでも大昔は、「多くの女性に対して、それぞれに相応した待遇を与え、いずれをも満足させるところに、色ごのみの理想が示されていた」そうなのですが、その様な人間の例である「王朝時代の名だたる色ごのみ、業平も、平中も、光源氏も、匂宮も、すべて女性を遇する道を心得た、最高のダンディズムでしたが、実生活では放蕩無頼、無能に近い人間でした。」とのことです(澁澤龍彦『快楽主義の哲学』文春文庫 83頁)
前の二人がリアルの人後ろの二人はフィクションの人ですが、要するに古来より日本では、たいして取り柄の無いぼんやりした男がヘタレ力で軟弱に女性の機嫌をとってモテモテって話が現実と妄想のいずれにおいても、展開されていたってことです。
ちなみに、色ごのみのダンディズムの継承者として、江戸時代には、遊里に入り浸って好色を極め隠者の境地に似た悟りに達する艶隠者(やさいんじゃ)が出現します。
ここでは、隠者と化してまで追求する色ごのみの対象が、売春婦あいての偽恋愛。
要は半虚構の世界でヘタレた引きこもり恋愛ごっこを展開しているわけです。
キャラクターにリアル人間を使ったエロゲーってレベルにまで、日本ダンディズムは堕ちてきました。もはや現代オタクまで、あと一歩ですね。
さて、このような歴史的経緯からすれば、半引きこもりエロゲ主人公の理不尽な奇跡の力「ヘタレ力」は日本恋愛情緒の正当後継者、日本的ヘタレダンディズムを究極にヘタレた完全虚構の形で展開する現代オタクは日本ダンディズムの究極進化形ではないかという気がしてきます。
「日本はその建国から由緒正しいオタク国家なのだ!!」(まーりゃん先輩 Leaf『ToHeart2 AnotherDays』より)とか言われたりするわけですが、建国以来かどうかはともかく、日本が古くからオタ気質を引きずっている筋金入りのオタク国家であるのは間違いないわけで、「ああ、よくぞ日本に生まれけり!!」(同上)って感じですね。
おまけ
特集 外国のキモオタたち?
偉大なるダメ人間シリーズその1 キルケゴール(当ブログ内に移転しました)
http://trushnote.exblog.jp/14529065/
もっともっとメイドさんとキルケゴール 続・偉大なるダメ人間シリーズその1
http://trushnote.exblog.jp/8194144/
物語の消費形態について―いわゆるオタクを時間的・空間的に相対化する試み―
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/kouroumu.html
古今東西の萌える人々 ~17世紀のイラン人と現代日本人の少年愛を中心に~
http://trushnote.exblog.jp/7433959/
リアルを拒否した男たち ~現代ファンタジー創世記~ ただの現実には興味なし、僕らは仮想を創り出す
http://trushnote.exblog.jp/7789369/
リンクを変更(2010年12月8日)
なぜ貴明さんが最適なご主人様なのか?
そこにはどんな女の子にもあわせて軟弱……
いえ柔軟に対応する能力があるからです
相手の心の力を巧みに受け流し、時には相手
の力を以って転ばせて絡め取る、魂の合気術
それこそすなわち!
ヘタレ力っ!!
はい、奇跡の力、ヘタレ力です!!
なぜだか女の子をとりこにしてしまう環境に
ムダに優しいマイナスエネルギー、それが
ヘタレ力です!!
エロゲの主人公は、やれば出来るといった作中の評価とか設定上の有能さはともかく、読み手から見れば、基本的に意欲や能力に甚だ欠ける、ぼんやり微妙な引きこもり臭い人間が多いわけですが、それがヘタレ呼ばわりされるのは至極当然の評価ではないかと思います。
エロゲが基本的にずらり並んだ複数ヒロインにモテモテって幻想を売りさばく商売である以上、主人公の基本造形が、どのヒロインにでも合わせて好きなように恋愛活動可能な、物理的に何の拘束もなく人格的に何の個性も意欲もなく能力的にたいした特徴のない、色々フリーダムな人間となるのはやむを得ないことです。しかもプレイヤーを、主人公を通じて、エロゲ界に巧く移入させヒロインと接触させるにはプレイヤーの自己イメージと抵触してしまう余計な個性なんかを持たない空虚な主人公こそが最良の造形ともいえるわけです。
とはいえ、それが最良の造形であってもヘタレはヘタレ、ヘタレがモテモテの納得のいかなさは、逃れられないならせめて皮肉の一つでも言いたくなるところであります。
というわけでヘタレ力というのは、皮肉っぽくてなかなか良い感じの名前であるとは言えましょう。
ところで、この「ヘタレ力」とヘタレ力の生み出すモテモテワールド、一般人の人々が見れば、キモいオタクのダメ妄想パワーが生み出した、末期的な逝っちゃった物語として、軽蔑の対象となるのかもしれません。ところがヘタレ→モテモテの夢時空は、現代エロゲに限ったことではなく、日本古来よりの伝統でさえあったりします。
なんでも大昔は、「多くの女性に対して、それぞれに相応した待遇を与え、いずれをも満足させるところに、色ごのみの理想が示されていた」そうなのですが、その様な人間の例である「王朝時代の名だたる色ごのみ、業平も、平中も、光源氏も、匂宮も、すべて女性を遇する道を心得た、最高のダンディズムでしたが、実生活では放蕩無頼、無能に近い人間でした。」とのことです(澁澤龍彦『快楽主義の哲学』文春文庫 83頁)
前の二人がリアルの人後ろの二人はフィクションの人ですが、要するに古来より日本では、たいして取り柄の無いぼんやりした男がヘタレ力で軟弱に女性の機嫌をとってモテモテって話が現実と妄想のいずれにおいても、展開されていたってことです。
ちなみに、色ごのみのダンディズムの継承者として、江戸時代には、遊里に入り浸って好色を極め隠者の境地に似た悟りに達する艶隠者(やさいんじゃ)が出現します。
ここでは、隠者と化してまで追求する色ごのみの対象が、売春婦あいての偽恋愛。
要は半虚構の世界でヘタレた引きこもり恋愛ごっこを展開しているわけです。
キャラクターにリアル人間を使ったエロゲーってレベルにまで、日本ダンディズムは堕ちてきました。もはや現代オタクまで、あと一歩ですね。
さて、このような歴史的経緯からすれば、半引きこもりエロゲ主人公の理不尽な奇跡の力「ヘタレ力」は日本恋愛情緒の正当後継者、日本的ヘタレダンディズムを究極にヘタレた完全虚構の形で展開する現代オタクは日本ダンディズムの究極進化形ではないかという気がしてきます。
「日本はその建国から由緒正しいオタク国家なのだ!!」(まーりゃん先輩 Leaf『ToHeart2 AnotherDays』より)とか言われたりするわけですが、建国以来かどうかはともかく、日本が古くからオタ気質を引きずっている筋金入りのオタク国家であるのは間違いないわけで、「ああ、よくぞ日本に生まれけり!!」(同上)って感じですね。
おまけ
特集 外国のキモオタたち?
偉大なるダメ人間シリーズその1 キルケゴール(当ブログ内に移転しました)
http://trushnote.exblog.jp/14529065/
もっともっとメイドさんとキルケゴール 続・偉大なるダメ人間シリーズその1
http://trushnote.exblog.jp/8194144/
物語の消費形態について―いわゆるオタクを時間的・空間的に相対化する試み―
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/kouroumu.html
古今東西の萌える人々 ~17世紀のイラン人と現代日本人の少年愛を中心に~
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リアルを拒否した男たち ~現代ファンタジー創世記~ ただの現実には興味なし、僕らは仮想を創り出す
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リンクを変更(2010年12月8日)
by trushbasket
| 2008-04-01 20:30
| My(山田昌弘)








