2008年 04月 30日
「引きこもりニート列伝」に関する余談
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最近になって引きこもりやらニートやらが問題視されていますが、歴史上の人物にも正業に就かずブラブラと過ごし時には働かず誰かの脛を齧っていた事例は結構存在する。そのコンセプトの下で書いてきたのが「引きこもりニート列伝」です。
もっとも、「ニート」は定義として「学生でもなく働いてもいない比較的若年の人間(英国では16~18歳、日本では16~34歳)」だそうで、列伝の中には何らかの形で収入を得ていたりして厳密にはニートではなくフリーターの方が近いのもけっこういます。ただ、現在の「ニート」にもネットでの株式取引で大もうけしたりネットオークションで収入があったりする人もいるようですから、大目に見て下さればありがたいです。それに、職についている人でも余り仕事をしていない場合は「社内ニート」なんて風に言われニートの一種呼ばわりされるらしいですよ、最近は。更に言えば、例えば現在の日本ではギャンブルで収入を得ている人は正業とはみなされないでしょうが、鎌倉期では博徒も「職人」「芸能」とされ彼らによる「座」(同業組合)もあったそうですから何が「職業」で何がそうでないかは時代により変動の余地があるようです。してみると、ニートであるか仕事をしているかという区分は結構曖昧なのではないでしょうか(勉強しているか否かの区分も実際には曖昧ですしね)。…何が言いたいかといえば、厳密には「ニート」とはいえない面子が混じっているかもしれないけど勘弁して下さいという事だったりします。
さて、僕はニートを大問題として騒いでる一般社会へ何らかの参考になればと思い、また偉人をおちょくりたい気持ちもちょっとだけあってこのシリーズを書き始めたわけですが、実は昔の真面目な歴史書作者にも同様な列伝をまとめた人がいたりします。というか、正史の列伝の中に隠者たちについて述べたものがあるのです。その最初の例が「後漢書」における「逸民伝」。編者である范曄は、当時の世間一般における風習にあえて逆らって顰蹙を買ったり、挙句の果てにはかつて怒りを買ったはずの王族の反乱に加担して刑死するというへそ曲がりと言うか反骨精神あふれる人物でしたから、世間の束縛から逃れた隠者たちに憧憬の念を持っていたであろう事は想像に難くありません。さて、この「逸民伝」序文において范曄の隠者に関する総評がありますが、そこから彼の隠遁観を見ることが出来ます。中国史上における引きこもりニートたちを彼はどう捉えたのでしょうか。
まず、隠遁の意義は大きなものであり「王侯に事えず、その事【NF注:自分自身の人生】を高尚に」するものであると積極的に評価しているのが目に付きます。その上で、范曄は以下のように隠遁者たちの生き方を分類していきます。
・或る者は野に隠れて己の志を探求
・或る者は暴力を避け道を全うする
・或る者は心を静め騒がしい性を制御
・或る者は危うい国を去って身の安全をはかる
・或る者は俗世を汚らわしいとして気概を奮い興す
・或る者は金や名誉を軽んじて清廉の志をとぎすます
更に、
中国の隠者といえば山林や田園で自給自足というイメージが一般にありますが、前漢末・後漢初の向長のように他人から食物を分けてもらいようやっと食いつなぎそれでも働かず好きな本を読んでいる生活をしていた人物もいました。また、陶淵明も官人にパトロンを求めた事は以前のレジュメで述べた通りです。隠者にも他人の脛を齧っている人だっていたわけですね。ますます引きこもりやニートと差がありません。
現代では穀潰し扱いされるばかりである引きこもりやニートも、国や時代によっては賢者として尊敬される事もありました。史書における「引きこもりニート列伝」もとい「逸民伝」からはそうした人々への憧憬や素直な敬意が垣間見えます。中国は昔も今も色々と大きな問題を抱えてもいますが、この時期における社会の懐の深さに対しては流石は古くからの文化大国と素直に感嘆させられる気がします。ニートやら引きこもりやらを単純に正当化するつもりは毛頭ありませんし「無駄飯食い」を見ていると腹立たしくなるのも理解は出来ますが、ただ個人の問題に帰して非難するだけに終わったり働いているか否かのみで人間の価値を評価するような風潮が現代において一部で見られるのは狭量で感心できないな、とは思います。
【参考文献】
中国の隠者 富士正晴著 岩波新書
蒙古襲来(上) 網野善彦 小学館ライブラリー
「ニート」って言うな! 本田由紀 内藤朝雄 後藤和智 光文社新書
関連サイト:
「BLOG360」(http://blog360.jp/)より
「ネオニートとは」
(http://epedia.blog360.jp/%A5%CD%A5%AA%A5%CB%A1%BC%A5%C8)
「社内ニートとは」
(http://epedia.blog360.jp/%BC%D2%C6%E2%A5%CB%A1%BC%A5%C8)
「あのAAどこ?」(http://dokoaa.com/)より
「ニート・無職頻出AA」(http://dokoaa.com/neet2.html)
「ザイーガ」(http://www.zaeega.com/)より
「【画像】働いたら負けかなと思ってる」
(http://blog.livedoor.jp/parumo_zaeega/archives/7369424.html)
「越えられない壁( ゚д゚)」(http://blog.livedoor.jp/papasans/)より
「『休みたいならやめればいい』急成長の日本電産社長」
(http://koerarenaikabe.livedoor.biz/archives/51179251.html)
発言の真偽はともかく、労働時間・形態に関してよからぬ噂もある企業のようです。
「あほニュース.zip」(http://news4u.blog51.fc2.com/)より
「2006年クリスマス『天下一無職会』目録」
(http://news4u.blog51.fc2.com/blog-entry-1470.html)
クリスマス恒例らしいですが、この年はなかなかすさまじかったようです。…世の中、ある意味で壮絶というか突き抜けた人々がいるものですね。
<追記(5/2)>リンク先の一部が繋がってなかったので繋ぎなおしました。ついでに少し加筆しています。
<追記その2(5/3)>誤字を一部訂正しました。
テキスト一覧
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/index.html)
数がかなり多いので、全体リンク先だけにしておきます。
もっとも、「ニート」は定義として「学生でもなく働いてもいない比較的若年の人間(英国では16~18歳、日本では16~34歳)」だそうで、列伝の中には何らかの形で収入を得ていたりして厳密にはニートではなくフリーターの方が近いのもけっこういます。ただ、現在の「ニート」にもネットでの株式取引で大もうけしたりネットオークションで収入があったりする人もいるようですから、大目に見て下さればありがたいです。それに、職についている人でも余り仕事をしていない場合は「社内ニート」なんて風に言われニートの一種呼ばわりされるらしいですよ、最近は。更に言えば、例えば現在の日本ではギャンブルで収入を得ている人は正業とはみなされないでしょうが、鎌倉期では博徒も「職人」「芸能」とされ彼らによる「座」(同業組合)もあったそうですから何が「職業」で何がそうでないかは時代により変動の余地があるようです。してみると、ニートであるか仕事をしているかという区分は結構曖昧なのではないでしょうか(勉強しているか否かの区分も実際には曖昧ですしね)。…何が言いたいかといえば、厳密には「ニート」とはいえない面子が混じっているかもしれないけど勘弁して下さいという事だったりします。
さて、僕はニートを大問題として騒いでる一般社会へ何らかの参考になればと思い、また偉人をおちょくりたい気持ちもちょっとだけあってこのシリーズを書き始めたわけですが、実は昔の真面目な歴史書作者にも同様な列伝をまとめた人がいたりします。というか、正史の列伝の中に隠者たちについて述べたものがあるのです。その最初の例が「後漢書」における「逸民伝」。編者である范曄は、当時の世間一般における風習にあえて逆らって顰蹙を買ったり、挙句の果てにはかつて怒りを買ったはずの王族の反乱に加担して刑死するというへそ曲がりと言うか反骨精神あふれる人物でしたから、世間の束縛から逃れた隠者たちに憧憬の念を持っていたであろう事は想像に難くありません。さて、この「逸民伝」序文において范曄の隠者に関する総評がありますが、そこから彼の隠遁観を見ることが出来ます。中国史上における引きこもりニートたちを彼はどう捉えたのでしょうか。
まず、隠遁の意義は大きなものであり「王侯に事えず、その事【NF注:自分自身の人生】を高尚に」するものであると積極的に評価しているのが目に付きます。その上で、范曄は以下のように隠遁者たちの生き方を分類していきます。
・或る者は野に隠れて己の志を探求
・或る者は暴力を避け道を全うする
・或る者は心を静め騒がしい性を制御
・或る者は危うい国を去って身の安全をはかる
・或る者は俗世を汚らわしいとして気概を奮い興す
・或る者は金や名誉を軽んじて清廉の志をとぎすます
更に、
「しかし彼らが田畝の中に満足し、江海のほとりに貧乏暮らししているさまを見ると、必ずしも魚や鳥を友とし、山林の趣を楽しんで隠棲しておるとは限らぬ。これも持って生れた性分からやむにやまれずそうなっているのだろう」とも述べています。要は、生来の性格から俗世間と水が合わない社会不適合者だったためやむなく引きこもりになったという事ですな。例えば「己の道を探求」「清廉の志をとぎすます」という言葉からは現代日本で「くだらない事に時間を費やすくらいなら、今は自分を見つめていたい」と言いつつ社会に出るのを拒んでいる話を連想してしまいます。ついでに、「身の安全をはかる」例としては「論語」に登場する接輿が連想されます。彼は自らの理想を取り上げてくれる国を探して放浪する孔子に対し、「已みなん已みなん。今の政に従う者は殆し」(「論語」微子編)(「おやめなさい、おやめなさい。今の政治に関わるのは危ないよ。」という意味)と呼びかけて諌めたと言われています。もっとも、実際には隠遁の理由は一つではなく上記のいくつかが複合したものではなかったでしょうか?清廉の志を求めたとされる人物にしても宮仕えに伴う人間関係が煩わしくまたリスクが嫌で物質的に貧しくとも自由な方が良いと考えた面もあるでしょうし。そういえば、あるニートの言葉として「働いたら負けかなと思ってる」というのが有名ですが、ひょっとするとこれもまた単なる怠けでなくワーキングプアやら過労死やらクレーマーやら言われたり「休みたいならやめればいい」なる言動が経営者から飛び出したりする現代において「身の安全をはかる」性格もあるのかもしれませんな。さしずめ「已みなん、已みなん。今の企業に従う者は殆し」といったところでしょうか。…流石に考えすぎですかね。
中国の隠者といえば山林や田園で自給自足というイメージが一般にありますが、前漢末・後漢初の向長のように他人から食物を分けてもらいようやっと食いつなぎそれでも働かず好きな本を読んでいる生活をしていた人物もいました。また、陶淵明も官人にパトロンを求めた事は以前のレジュメで述べた通りです。隠者にも他人の脛を齧っている人だっていたわけですね。ますます引きこもりやニートと差がありません。
現代では穀潰し扱いされるばかりである引きこもりやニートも、国や時代によっては賢者として尊敬される事もありました。史書における「引きこもりニート列伝」もとい「逸民伝」からはそうした人々への憧憬や素直な敬意が垣間見えます。中国は昔も今も色々と大きな問題を抱えてもいますが、この時期における社会の懐の深さに対しては流石は古くからの文化大国と素直に感嘆させられる気がします。ニートやら引きこもりやらを単純に正当化するつもりは毛頭ありませんし「無駄飯食い」を見ていると腹立たしくなるのも理解は出来ますが、ただ個人の問題に帰して非難するだけに終わったり働いているか否かのみで人間の価値を評価するような風潮が現代において一部で見られるのは狭量で感心できないな、とは思います。
【参考文献】
中国の隠者 富士正晴著 岩波新書
蒙古襲来(上) 網野善彦 小学館ライブラリー
「ニート」って言うな! 本田由紀 内藤朝雄 後藤和智 光文社新書
関連サイト:
「BLOG360」(http://blog360.jp/)より
「ネオニートとは」
(http://epedia.blog360.jp/%A5%CD%A5%AA%A5%CB%A1%BC%A5%C8)
「社内ニートとは」
(http://epedia.blog360.jp/%BC%D2%C6%E2%A5%CB%A1%BC%A5%C8)
「あのAAどこ?」(http://dokoaa.com/)より
「ニート・無職頻出AA」(http://dokoaa.com/neet2.html)
「ザイーガ」(http://www.zaeega.com/)より
「【画像】働いたら負けかなと思ってる」
(http://blog.livedoor.jp/parumo_zaeega/archives/7369424.html)
「越えられない壁( ゚д゚)」(http://blog.livedoor.jp/papasans/)より
「『休みたいならやめればいい』急成長の日本電産社長」
(http://koerarenaikabe.livedoor.biz/archives/51179251.html)
発言の真偽はともかく、労働時間・形態に関してよからぬ噂もある企業のようです。
「あほニュース.zip」(http://news4u.blog51.fc2.com/)より
「2006年クリスマス『天下一無職会』目録」
(http://news4u.blog51.fc2.com/blog-entry-1470.html)
クリスマス恒例らしいですが、この年はなかなかすさまじかったようです。…世の中、ある意味で壮絶というか突き抜けた人々がいるものですね。
<追記(5/2)>リンク先の一部が繋がってなかったので繋ぎなおしました。ついでに少し加筆しています。
<追記その2(5/3)>誤字を一部訂正しました。
by trushbasket
| 2008-04-30 00:53
| NF








