2008年 08月 03日
昔、オタクありけり ~伊勢物語 HENTAI side~
|
世界に冠たるHENTAI国家、日本の皆さんこんにちは。
今日は我が国の誇る歌物語で、あの『源氏物語』にも影響を与え、我が国の偉大な文学的伝統の源流となっている『伊勢物語』のHENTAIな側面、ダメオタ的な箇所を扱いますよ。
とりあえず原文の引用は『新版 伊勢物語』(石田穣二訳注 角川ソフィア文庫)からで、詩と本文の間に改行を追加しています。
第四十段
<訳>
昔、若いオタクが、わりとかわいい女に萌えた。親が気を回して、執着しないよう、この女をほかへ追い出そうとした。そこでまだ追い出す前のことであった。オタクは親が頼りのニートなので、まだ思いのままに振る舞える立場でなく、女を手元に留めておく力はなかった。女は身分の低いメイドなので、これを拒否する力がなかった。そうするうち、想いはいっそう募りに募った。急に親は、この女を追い出した。オタクは血の涙を流して悲しんだが、留めることはできなかった。女は家から連れ出されていった。オタクは泣く泣くポエムした
ふられてもこれほど別れはつらくない
日がたつほどに愛しく悲しい
こうポエムして気絶した。親は、あわてた。子を思えば小言も言ったが、まさかこんなことにと悩んでいたところ、今日の日暮れ頃にほんとに死にそうになって、翌朝どうにか息を吹き返した。昔の若者はこれほどまでに一途に恋したのだ。近頃の若い者は、心が老け込んでいるから、これほど萌えることなどできまい。
第四十九段
<訳>
昔、オタクが、妹がとても愛くるしいのを見ながら、
恨めしい俺の萌えてる妹と
俺は寝れずに人に犯られる
と詠った。返しの歌は、
うれしいな初めて好きと聞いたかも
ずっとぴったり甘えてきたのに
第九十六段
<訳>
昔、オタクがいた。女にあれこれ言い寄って長年経った。女も木石ではないので、かわいそうな男だと思って、だんだん気にかけるようになった。そのころ六月の十五日ごろだったので、女はからだにおできが一つ二つできた。女が言って寄こすには、「今は貴方の他は、何も考えられません。ですが体におできが一つ二つでています。季節も暑いですし。ですから少し秋風が吹き始めるころに、きっと逢いましょう」とのことであった。秋を待つ間に、あちこちから、女がその男の元に行こうとしていると、噂が立った。そのため、女の兄があわてて女を連れ去りに来た。そこで、この女は、最初に紅くなった楓を拾わせて、歌を詠み、書き付けて渡すことにした。
秋来ても飽きは来ないが落ち葉で埋まる
入江にも似る浅い縁よ
こう書き置いて、「あちらから使者を寄こしてきたら、これを渡しなさい」と言って、行ってしまった。こうして、その後は、とうとう今日までどうしているのか分からない。幸せにしているのか、不幸になっていないか。居場所さえもわからない。例のオタクは、天の逆手を打って、女を呪っているそうだ。ホントキモい話ですね。人の呪いの言葉が、通じて襲いかかることはあるのか、ないのか。ともかく、オタクは「今に見ていろ」とか言っているそうだ。
『伊勢物語』の主人公の「男」は色好みで有名な色男の在原業平(825~880)だそうですが、はっきり言って行動はひどくキモいですね。
別れを嫌って「血の涙」を流し別れの悲しみに死にかけるほど、深く激しくメイドに萌えて(『新版 伊勢物語』角川ソフィア文庫の注では「家に使われる婢」、『日本古典文学全集12』小学館の訳および注では「召使女」)、思いあまってポエムしたり、
妹を見れば「寝よげ(寝ると良さそう)」とかほざいて人に奪られる日のことを惜しみ、
女に逃げられるとヤンデレ開眼して呪いをはじめる始末。
こんな男が我が国の色男の代名詞とは…。
まあ、顔が良ければ、なんでも良いと言うことでしょうね。
参考資料
『新版 伊勢物語』石田穣二訳注 角川ソフィア文庫
『日本古典文学全集12 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』片桐洋一/福井貞助/高橋正治/清水好子訳注 小学館
中村真一郎著『色好みの構造-王朝文化の深層-』岩波新書
大野順一著『色好みの系譜』創文社
『スーパー・ニッポニカ Professional』小学館
関連記事
ヘタレ力 in 日本史
またまた「巫女萌え」を歴史的に考える
世界の偉人とメイドさん
れきけん・とらっしゅばすけっと/京都大学歴史研究会関連発表
引きこもりニート列伝その34 契沖
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet34.html
偉大なるダメ人間シリーズその1 キルケゴール(当ブログ内に移転しました)
http://trushnote.exblog.jp/14529065/
源氏物語を読む
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1998/980515.html
(以下2010年6月26日加筆)
在原業平のシスコンぶりについては
よろしければ、社会評論社『ダメ人間の日本史』
(「小野篁 在原業平 妹よ ああ妹よ 妹よ それにつけても 妹可愛い ~平安時代のシスコン天才歌人たち~」収録)
もご参照ください。
リンクを変更(2010年12月8日)
今日は我が国の誇る歌物語で、あの『源氏物語』にも影響を与え、我が国の偉大な文学的伝統の源流となっている『伊勢物語』のHENTAIな側面、ダメオタ的な箇所を扱いますよ。
とりあえず原文の引用は『新版 伊勢物語』(石田穣二訳注 角川ソフィア文庫)からで、詩と本文の間に改行を追加しています。
第四十段
むかし、若き男、けしうはあらぬ女を思ひけり。さかしらする親ありて、思ひもぞつくとて、この女をほかへ追いやらむとす。さこそいへ、まだ追ひやらず。人の子なれば、まだ心いきほひなかりければ、とどむるいきほひなし。女もいやしければ、すまふ力なし。さるあひだに、思ひはいやまさりにまさる。にはかに、親、この女を追いうつ。男、血の涙を流せども、とどむるよしなし。率ていでていぬ。男、泣く泣くよめる、
いでていなば誰か別れのかたからむ
ありしにまさる今日はかなしも
とよみて絶え入りにけり。親、あわてにけり。なほ思ひてこそ言ひしか、いとかくしもあらじと思ふに、真実に絶え入りにければ、まどひて願立てけり。今日のいりあひばかりに絶え入りて、またの日の戌の時ばかりになむ、からうして生きいでたりける。昔の若人はさる好けるもの思ひをなむしける。今の翁、まさにしなむや。
<訳>
昔、若いオタクが、わりとかわいい女に萌えた。親が気を回して、執着しないよう、この女をほかへ追い出そうとした。そこでまだ追い出す前のことであった。オタクは親が頼りのニートなので、まだ思いのままに振る舞える立場でなく、女を手元に留めておく力はなかった。女は身分の低いメイドなので、これを拒否する力がなかった。そうするうち、想いはいっそう募りに募った。急に親は、この女を追い出した。オタクは血の涙を流して悲しんだが、留めることはできなかった。女は家から連れ出されていった。オタクは泣く泣くポエムした
ふられてもこれほど別れはつらくない
日がたつほどに愛しく悲しい
こうポエムして気絶した。親は、あわてた。子を思えば小言も言ったが、まさかこんなことにと悩んでいたところ、今日の日暮れ頃にほんとに死にそうになって、翌朝どうにか息を吹き返した。昔の若者はこれほどまでに一途に恋したのだ。近頃の若い者は、心が老け込んでいるから、これほど萌えることなどできまい。
第四十九段
むかし、男、妹のいとをかしげなりけるを見をりて、
うら若み寝よげに見ゆる若草を
人のむすばむことをしぞ思ふ
と聞えけり。返し、
初草のなどめづらしき言の葉ぞ
うらなくものを思ひけるかな
<訳>
昔、オタクが、妹がとても愛くるしいのを見ながら、
恨めしい俺の萌えてる妹と
俺は寝れずに人に犯られる
と詠った。返しの歌は、
うれしいな初めて好きと聞いたかも
ずっとぴったり甘えてきたのに
第九十六段
むかし、男ありけり。女をとかく言ふこと月日経にけり。石木にしあらねば、心苦しとや思ひけむ、やうやうあはれと思ひけり。そのころ、水無月の望ばかりなりければ、女、身にかさ一つ二ついでにけり。女言ひおこせたる、「今はなにの心もなし。身に、かさも一つ二ついでたり。時もいと暑し。すこし秋風吹き立ちなむ時、かならずあはむ」と言へりけり。秋待つころほひに、ここかしこより、その人のもとへいなむずなりとて、口舌いでにけり。さりければ、女の兄人、にはかに迎へに来たり。されば、この女、かへでの初紅葉をひろはせて、歌をよみて、書きつけておこせたり。
秋かけて言ひしながらもあらなくに
木の葉降りしくえにこそありけれ
と書き置きて、「かしこちる人おこせば、これをやれ」とて、いぬ。さて、やがてのち、つひに今日まで知らず。よくてやあらむ、あしくてやあらむ。いにし所をも知らず。かの男は、天の逆手を打ちてなむ、のろひをるなる。むくつけきこと。人ののろひごとは、負ふものにはあらむ、負はぬものにやあらむ。「今こそは見め」とぞ言ふなる。
<訳>
昔、オタクがいた。女にあれこれ言い寄って長年経った。女も木石ではないので、かわいそうな男だと思って、だんだん気にかけるようになった。そのころ六月の十五日ごろだったので、女はからだにおできが一つ二つできた。女が言って寄こすには、「今は貴方の他は、何も考えられません。ですが体におできが一つ二つでています。季節も暑いですし。ですから少し秋風が吹き始めるころに、きっと逢いましょう」とのことであった。秋を待つ間に、あちこちから、女がその男の元に行こうとしていると、噂が立った。そのため、女の兄があわてて女を連れ去りに来た。そこで、この女は、最初に紅くなった楓を拾わせて、歌を詠み、書き付けて渡すことにした。
秋来ても飽きは来ないが落ち葉で埋まる
入江にも似る浅い縁よ
こう書き置いて、「あちらから使者を寄こしてきたら、これを渡しなさい」と言って、行ってしまった。こうして、その後は、とうとう今日までどうしているのか分からない。幸せにしているのか、不幸になっていないか。居場所さえもわからない。例のオタクは、天の逆手を打って、女を呪っているそうだ。ホントキモい話ですね。人の呪いの言葉が、通じて襲いかかることはあるのか、ないのか。ともかく、オタクは「今に見ていろ」とか言っているそうだ。
『伊勢物語』の主人公の「男」は色好みで有名な色男の在原業平(825~880)だそうですが、はっきり言って行動はひどくキモいですね。
別れを嫌って「血の涙」を流し別れの悲しみに死にかけるほど、深く激しくメイドに萌えて(『新版 伊勢物語』角川ソフィア文庫の注では「家に使われる婢」、『日本古典文学全集12』小学館の訳および注では「召使女」)、思いあまってポエムしたり、
妹を見れば「寝よげ(寝ると良さそう)」とかほざいて人に奪られる日のことを惜しみ、
女に逃げられるとヤンデレ開眼して呪いをはじめる始末。
こんな男が我が国の色男の代名詞とは…。
まあ、顔が良ければ、なんでも良いと言うことでしょうね。
参考資料
『新版 伊勢物語』石田穣二訳注 角川ソフィア文庫
『日本古典文学全集12 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』片桐洋一/福井貞助/高橋正治/清水好子訳注 小学館
中村真一郎著『色好みの構造-王朝文化の深層-』岩波新書
大野順一著『色好みの系譜』創文社
『スーパー・ニッポニカ Professional』小学館
関連記事
ヘタレ力 in 日本史
またまた「巫女萌え」を歴史的に考える
世界の偉人とメイドさん
れきけん・とらっしゅばすけっと/京都大学歴史研究会関連発表
引きこもりニート列伝その34 契沖
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet34.html
偉大なるダメ人間シリーズその1 キルケゴール(当ブログ内に移転しました)
http://trushnote.exblog.jp/14529065/
源氏物語を読む
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1998/980515.html
(以下2010年6月26日加筆)
在原業平のシスコンぶりについては
よろしければ、社会評論社『ダメ人間の日本史』
(「小野篁 在原業平 妹よ ああ妹よ 妹よ それにつけても 妹可愛い ~平安時代のシスコン天才歌人たち~」収録)
もご参照ください。
リンクを変更(2010年12月8日)
by trushbasket
| 2008-08-03 20:25
| My(山田昌弘)








