2008年 09月 25日
平安前期シス魂伝奇 小野篁、妹を哀す -『篁物語』アフター ~キモウト~
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ここまでの話はこちら
平安前期の漢詩人、小野篁は若い頃、異腹の妹と相思相愛であり、妹が篁の子を宿すところまで行ったのですが、二人は妹の母親によって仲を引き裂かれて、妹は悶死します。
そしてその日の晩、兄は、妹の霊が現れ添い寝するのを感じ取り(そひ臥す心ちして)、
二人は泣く泣く語り合い、触れることも出来ぬ妹を兄は「ふところにかき入れて」夜を過ごし、余りにはかない逢瀬を嘆く歌を交わしたところで、朝がきて妹の姿は消えました。
それからも妹の霊はしだいに、時々しか見えなくなりつつも姿を現し続け、一方、兄は泣き続けました。兄は、妹の死後の世話を顧みない親に代わって、四十九日まで続く七日ごとの供養を行って、涙で墨を擦って法華経を書き続けていましたが、供養を終えても妹はほのかに現れることを止めなかったそうです。そして三年が過ぎて後、ようやく妹の霊は、夢の中にさえはっきりとは現れなくなったとか。
それでも兄はなお悲しんで、妹が死んだ当時のように暮らして、妻も迎えず過ごしていたそうです。
その後、どれだけの月日が経ったのか物語には記されていませんが、兄は未だ身分卑しい学生の身でありながら、
しかも黒ずんで破れたヨレヨレの着物(橡の、やれ困じたる着て)と踵のつぶれた靴(しりゐたる沓)にボロボロのブックケース(ふくめる、文のちゝ)というダメ人間ファッションで、
時の大臣の娘をくれるよう申し込み、運良く大臣に見込まれ、大臣の娘と結婚することになります。
ちなみにこの際、大臣は、長女、次女に順に話を持ちかけたものの、娘たちは当然嫌がり、三番目の娘に至ってようやく父の提案を承諾するという、一騒動が起こっています。
ところが、どうにか運良く大臣の娘との縁談がまとまり、大臣の家で結婚披露を行っていた頃、兄は今は姿も現さなくなった妹の霊に報告でもするつもりだったのか偶々なのか、とにかく、かつて妹のいた建物に立ち寄ることになって、そこで悲しみながら眠りにつきます。すると、兄が他の女と結婚するのがよほどつらかったのか、そこに妹の霊は姿を現して、兄に対して歌を投げかけます
<訳>
お兄ちゃんほんとに私の兄ならば私を忘れて結婚しないで
兄はそれから七日も泣き暮らし、妻との仲も微妙になってしまいましたとさ。
そして喪失感からでしょうか、若い間は、よその女の所へとふらついてたりしていたとか。
なんでもゲームとかに出てくる、お兄ちゃんに執着し過ぎて色々ヤヴァくて黒くて狂ってキモイ妹を、キモウトとか呼ぶそうなのですが、
自分の死のショックから長い年月を経て、ようやく精神再建中の元妹激love兄ちゃんがついに結婚に踏み切ったとなるや、
化けて出て兄の結婚に不満タラタラ、兄を動揺させ新婚生活を気まずくさせてしまうとは、
篁の妹は、なかなか良いキモウトですね。
なお、篁は年を取るにつれ大臣の見込みに応えて才覚を現し、大臣にまで大出世して、あまり良くない男と結婚してしまった妻の姉たちまでもそのお陰を蒙ったそうです。また、どうにかその頃には篁の家庭生活も落ち着いて、妻を大事にするようになったとのことです。
参考資料
『日本古典文学大系 77 篁・平中・濱松中納言物語』 岩波書店
『現代語譯 日本古典文學全集 更級日記 平中物語 篁物語 堤中納言物語』松尾聰訳 河出書房
『物語文学研究叢書 第11巻 校註篁物語 校註海人刈藻ほか』クレス出版
中村真一郎著『色好みの構造-王朝文化の深層-』岩波新書
『スーパー・ニッポニカ Professional』小学館
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妹をかわいがって信頼し、妹の育てた娘との結婚を選んだ男です
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http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/michizane.html
小野一族の人名が出てきます
遣唐使~その歴史的経緯と役割~
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2003/030418.html
篁は遣唐使に選ばれながら逃げ出した人物です
(以下2010年6月26日加筆)
小野篁については
よろしければ、社会評論社『ダメ人間の日本史』
(「小野篁 在原業平 妹よ ああ妹よ 妹よ それにつけても 妹可愛い ~平安時代のシスコン天才歌人たち~」収録)
もご参照ください。
リンクを変更(2010年12月8日)
平安前期の漢詩人、小野篁は若い頃、異腹の妹と相思相愛であり、妹が篁の子を宿すところまで行ったのですが、二人は妹の母親によって仲を引き裂かれて、妹は悶死します。
そしてその日の晩、兄は、妹の霊が現れ添い寝するのを感じ取り(そひ臥す心ちして)、
二人は泣く泣く語り合い、触れることも出来ぬ妹を兄は「ふところにかき入れて」夜を過ごし、余りにはかない逢瀬を嘆く歌を交わしたところで、朝がきて妹の姿は消えました。
それからも妹の霊はしだいに、時々しか見えなくなりつつも姿を現し続け、一方、兄は泣き続けました。兄は、妹の死後の世話を顧みない親に代わって、四十九日まで続く七日ごとの供養を行って、涙で墨を擦って法華経を書き続けていましたが、供養を終えても妹はほのかに現れることを止めなかったそうです。そして三年が過ぎて後、ようやく妹の霊は、夢の中にさえはっきりとは現れなくなったとか。
それでも兄はなお悲しんで、妹が死んだ当時のように暮らして、妻も迎えず過ごしていたそうです。
その後、どれだけの月日が経ったのか物語には記されていませんが、兄は未だ身分卑しい学生の身でありながら、
しかも黒ずんで破れたヨレヨレの着物(橡の、やれ困じたる着て)と踵のつぶれた靴(しりゐたる沓)にボロボロのブックケース(ふくめる、文のちゝ)というダメ人間ファッションで、
時の大臣の娘をくれるよう申し込み、運良く大臣に見込まれ、大臣の娘と結婚することになります。
ちなみにこの際、大臣は、長女、次女に順に話を持ちかけたものの、娘たちは当然嫌がり、三番目の娘に至ってようやく父の提案を承諾するという、一騒動が起こっています。
ところが、どうにか運良く大臣の娘との縁談がまとまり、大臣の家で結婚披露を行っていた頃、兄は今は姿も現さなくなった妹の霊に報告でもするつもりだったのか偶々なのか、とにかく、かつて妹のいた建物に立ち寄ることになって、そこで悲しみながら眠りにつきます。すると、兄が他の女と結婚するのがよほどつらかったのか、そこに妹の霊は姿を現して、兄に対して歌を投げかけます
見し人にこれかあらぬかおぼつかなもの忘れせじと思ひしものを
<訳>
お兄ちゃんほんとに私の兄ならば私を忘れて結婚しないで
兄はそれから七日も泣き暮らし、妻との仲も微妙になってしまいましたとさ。
そして喪失感からでしょうか、若い間は、よその女の所へとふらついてたりしていたとか。
なんでもゲームとかに出てくる、お兄ちゃんに執着し過ぎて色々ヤヴァくて黒くて狂ってキモイ妹を、キモウトとか呼ぶそうなのですが、
自分の死のショックから長い年月を経て、ようやく精神再建中の元妹激love兄ちゃんがついに結婚に踏み切ったとなるや、
化けて出て兄の結婚に不満タラタラ、兄を動揺させ新婚生活を気まずくさせてしまうとは、
篁の妹は、なかなか良いキモウトですね。
なお、篁は年を取るにつれ大臣の見込みに応えて才覚を現し、大臣にまで大出世して、あまり良くない男と結婚してしまった妻の姉たちまでもそのお陰を蒙ったそうです。また、どうにかその頃には篁の家庭生活も落ち着いて、妻を大事にするようになったとのことです。
参考資料
『日本古典文学大系 77 篁・平中・濱松中納言物語』 岩波書店
『現代語譯 日本古典文學全集 更級日記 平中物語 篁物語 堤中納言物語』松尾聰訳 河出書房
『物語文学研究叢書 第11巻 校註篁物語 校註海人刈藻ほか』クレス出版
中村真一郎著『色好みの構造-王朝文化の深層-』岩波新書
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篁は遣唐使に選ばれながら逃げ出した人物です
(以下2010年6月26日加筆)
小野篁については
よろしければ、社会評論社『ダメ人間の日本史』
(「小野篁 在原業平 妹よ ああ妹よ 妹よ それにつけても 妹可愛い ~平安時代のシスコン天才歌人たち~」収録)
もご参照ください。
リンクを変更(2010年12月8日)
by trushbasket
| 2008-09-25 01:55
| My(山田昌弘)








