2008年 11月 09日
「二次をつかむ男」~美女のフィギュアや絵を愛した前近代東洋人たちの話~
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以前、三国志の英雄・劉備がフィギュアを愛した事についてお話したと思います。その際、「『中国性愛文化』では彫像愛の代表として挙げられているのは彼の例だけ」と申し上げたのですが、物語レベルでは「封神演義」のような例もある事もまた述べたとおりです。今回、それ以外にもフィギュアを愛した男の物語が見つかりましたのでここでご報告しようかと思います。
唐代に成立した怪奇物語集に「広異記」というのがあります。その中に花嫁人形に関する話があり、主人公の盧賛全という人物が陶器製の花嫁人形を大事にしていたそうです。それを見た妻が冗談交じりで「妾にするとよい」と言ったところ、それ以降盧の寝床に怪しい女が忍び入ってくるようになり盧はやつれてしまいます。そこで盧夫婦は人形の仕業と考えて寺で供養したところ、そこに女が現れて「自分は盧の妾だが追い出された」と述べ出します。驚いた盧が件の花嫁人形を壊したら、その心臓にあたる場所に血の塊がありそれが魂となっていたのであろうと分かったという話です。無論、怪異譚であり気楽なフィギュア萌え話とは異なるのですが、それでも美女の人形に危ういほど心奪われる事がありうるものとして受け取られていた事は読み取れるように思います。
また、晋代の怪奇物語集「捜神記」にはこのような話があります。蒋子文という人物を祀った祠で、三人の男が酒を飲み女性達の神像を指して冗談で「こいつは俺の嫁」と言って像に戯れ怪しからぬ振舞に及んだりしたそうです。すると三人の夢に蒋子文が現れ、「自分に仕える女を妻にしていただきありがたい。日を期して迎えにあがる。」と告げました。恐れおののいた三人は許しを請い取り消しを願ったものの、間もなく三人とも世を去ったとか。神様相手に軽々しい事をして取り返しの付かない事になったというよくある話ですが、この場合は(普通に考えると神罰なんでしょうが)考えようによっては二次元世界へいって理想の女性とゴールインと見れなくもない辺りが何とも。少なくとも「誰々は俺の嫁」と嘯いたり「現実はクソゲー」と苦悶したりする人々の中には羨ましがる向きもあるかも知れません。ま、これも怪異譚であることは上の話と同じですが、やはり作り物である像に性的魅力を感じる事が当時からあった事は分かりますよね。しかしそれにしても、中国でも日本でも女神像に不埒な振舞に出る罰当たりは宗教的威信が強かった古代にも結構いるものですね。
そういえばフィギュアの話とは異なるのですが、清代の「聊斎志異」には、主人公・朱孝廉が寺の壁画に描かれた乙女に心奪われ、絵の中に入りこんで二日ほど乙女と過ごしたという内容の話もあったりします。絵から美女が出てくる話を以前にしましたが、似たような逸話が他にもあったのですね。フィギュア以外にも、パソコンのモニターに入ってゲームのヒロインと添い遂げたいという願望もしばしば耳にしますが、これも昔から似たような話が存在するというわけですな。
以上から、物語において美女の人形や絵に心奪われる話はしばしばある事はお分かりいただけるでしょう。中国だけでなく我が国においても「源氏物語」の「宿木」でも薫が今は亡き想い人の姿を人形にして置きたいと望んだという話がありますし、他にも有名なところでは人形を熱愛したり美人画に惚れて絵に入り込もうとする男の話は江戸川乱歩にもあったりしますよね。更に「大和怪談頃日全集」にも似たような話があります。それによれば、菅谷次郎八という武士が吉原の白梅という遊女に入れあげたものの、しばらく仕事の関係で上洛しなければならなくなった際に彼女そっくりの等身大人形を作らせました。その人形は湯を注いで人肌の暖かさにできるという凝ったもので、次郎八はこの人形に「そなたはわしを可愛く思うか」と問うた所「いかにも、いとしうござんす」と人形が答えたので恐れ慄いて人形を切り捨てたとか。因みに、モデルであった本物の白梅がその同日同時刻に殺害されたという結末で話は終わっています。
要するに現実の異性に幻滅するなど何らかの理由で、理想を写し取った人形や絵に入れあげるダメな人は今に限らず昔から存在したと言う事ですね。中には手の届かない本物の異性の代替として人形を愛でた人もいたようですが。全くもって技術がどれほど進もうと人間とは変わらないものですが、昔においてはそうした嗜好への社会的圧力は今と比べ物にならないほど強いものであったでしょうし、一般社会からすれば理解不能なものとして不気味にも思われたでしょう。それを考えると、昔のこの手の物語のほとんどが怪奇ものという形を取るのは自然であると思います。
【参考文献】
中国怪奇物語 妖怪編 駒田信二 講談社文庫
中国怪奇物語 神仙編 駒田信二 講談社文庫
捜神記 干宝 竹田晃訳 平凡社東洋文庫
中国古典文学大系40・41聊斎志異(上)・(下) 平凡社
日本古典文学大系14-18源氏物語 岩波書店
江戸川乱歩全集2パノラマ島奇譚 講談社
江戸川乱歩全集4猟奇の果 講談社
東西不思議物語 澁澤龍彦 河出文庫
関連記事:
「偉大なるダメ人間シリーズ番外その2 等身大幼女フィギュアを抱えて動き回る変態武闘派哲学者?」
「偉大なるダメ人間シリーズ外伝その6 フィギュアを愛好した三国志の英雄」
「メイドロボの精神史 前編」
「メイドロボの精神史 後編」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「中国民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020607.html)
「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「源氏物語を読む」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1998/980515.html)
「物語の消費形態について―いわゆるオタクを時間的・空間的に相対化する試み―」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/kouroumu.html)
関連サイト:
「pya!」(http://pya.cc/index.php)より
「フィギュア萌え」(http://pya.cc/pyaimg/pimg.php?imgid=61683)
「『北斗の拳』スレッドの杜」(http://www.dslender.com/hokuto/)より
「No.5 シン─最初の“ラスボス”」
(http://www.dslender.com/hokuto/20040111.html)
想い人の人形ってことで。
唐代に成立した怪奇物語集に「広異記」というのがあります。その中に花嫁人形に関する話があり、主人公の盧賛全という人物が陶器製の花嫁人形を大事にしていたそうです。それを見た妻が冗談交じりで「妾にするとよい」と言ったところ、それ以降盧の寝床に怪しい女が忍び入ってくるようになり盧はやつれてしまいます。そこで盧夫婦は人形の仕業と考えて寺で供養したところ、そこに女が現れて「自分は盧の妾だが追い出された」と述べ出します。驚いた盧が件の花嫁人形を壊したら、その心臓にあたる場所に血の塊がありそれが魂となっていたのであろうと分かったという話です。無論、怪異譚であり気楽なフィギュア萌え話とは異なるのですが、それでも美女の人形に危ういほど心奪われる事がありうるものとして受け取られていた事は読み取れるように思います。
また、晋代の怪奇物語集「捜神記」にはこのような話があります。蒋子文という人物を祀った祠で、三人の男が酒を飲み女性達の神像を指して冗談で「こいつは俺の嫁」と言って像に戯れ怪しからぬ振舞に及んだりしたそうです。すると三人の夢に蒋子文が現れ、「自分に仕える女を妻にしていただきありがたい。日を期して迎えにあがる。」と告げました。恐れおののいた三人は許しを請い取り消しを願ったものの、間もなく三人とも世を去ったとか。神様相手に軽々しい事をして取り返しの付かない事になったというよくある話ですが、この場合は(普通に考えると神罰なんでしょうが)考えようによっては二次元世界へいって理想の女性とゴールインと見れなくもない辺りが何とも。少なくとも「誰々は俺の嫁」と嘯いたり「現実はクソゲー」と苦悶したりする人々の中には羨ましがる向きもあるかも知れません。ま、これも怪異譚であることは上の話と同じですが、やはり作り物である像に性的魅力を感じる事が当時からあった事は分かりますよね。しかしそれにしても、中国でも日本でも女神像に不埒な振舞に出る罰当たりは宗教的威信が強かった古代にも結構いるものですね。
そういえばフィギュアの話とは異なるのですが、清代の「聊斎志異」には、主人公・朱孝廉が寺の壁画に描かれた乙女に心奪われ、絵の中に入りこんで二日ほど乙女と過ごしたという内容の話もあったりします。絵から美女が出てくる話を以前にしましたが、似たような逸話が他にもあったのですね。フィギュア以外にも、パソコンのモニターに入ってゲームのヒロインと添い遂げたいという願望もしばしば耳にしますが、これも昔から似たような話が存在するというわけですな。
以上から、物語において美女の人形や絵に心奪われる話はしばしばある事はお分かりいただけるでしょう。中国だけでなく我が国においても「源氏物語」の「宿木」でも薫が今は亡き想い人の姿を人形にして置きたいと望んだという話がありますし、他にも有名なところでは人形を熱愛したり美人画に惚れて絵に入り込もうとする男の話は江戸川乱歩にもあったりしますよね。更に「大和怪談頃日全集」にも似たような話があります。それによれば、菅谷次郎八という武士が吉原の白梅という遊女に入れあげたものの、しばらく仕事の関係で上洛しなければならなくなった際に彼女そっくりの等身大人形を作らせました。その人形は湯を注いで人肌の暖かさにできるという凝ったもので、次郎八はこの人形に「そなたはわしを可愛く思うか」と問うた所「いかにも、いとしうござんす」と人形が答えたので恐れ慄いて人形を切り捨てたとか。因みに、モデルであった本物の白梅がその同日同時刻に殺害されたという結末で話は終わっています。
要するに現実の異性に幻滅するなど何らかの理由で、理想を写し取った人形や絵に入れあげるダメな人は今に限らず昔から存在したと言う事ですね。中には手の届かない本物の異性の代替として人形を愛でた人もいたようですが。全くもって技術がどれほど進もうと人間とは変わらないものですが、昔においてはそうした嗜好への社会的圧力は今と比べ物にならないほど強いものであったでしょうし、一般社会からすれば理解不能なものとして不気味にも思われたでしょう。それを考えると、昔のこの手の物語のほとんどが怪奇ものという形を取るのは自然であると思います。
【参考文献】
中国怪奇物語 妖怪編 駒田信二 講談社文庫
中国怪奇物語 神仙編 駒田信二 講談社文庫
捜神記 干宝 竹田晃訳 平凡社東洋文庫
中国古典文学大系40・41聊斎志異(上)・(下) 平凡社
日本古典文学大系14-18源氏物語 岩波書店
江戸川乱歩全集2パノラマ島奇譚 講談社
江戸川乱歩全集4猟奇の果 講談社
東西不思議物語 澁澤龍彦 河出文庫
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歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「中国民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020607.html)
「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「源氏物語を読む」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1998/980515.html)
「物語の消費形態について―いわゆるオタクを時間的・空間的に相対化する試み―」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/kouroumu.html)
関連サイト:
「pya!」(http://pya.cc/index.php)より
「フィギュア萌え」(http://pya.cc/pyaimg/pimg.php?imgid=61683)
「『北斗の拳』スレッドの杜」(http://www.dslender.com/hokuto/)より
「No.5 シン─最初の“ラスボス”」
(http://www.dslender.com/hokuto/20040111.html)
想い人の人形ってことで。
by trushbasket
| 2008-11-09 15:33
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